味の素は、2003年から日本オリンピック委員会と共同で、日本選手団の食と栄養面の強化支援「ビクトリープロジェクト」を立ち上げた。10年からは都内の味の素ナショナルトレーニングセンター(以下NTC)内に栄養管理食堂「サクラダイニング(通称:勝ち飯食堂)」にて、バランスの良い食事の摂り方など食と栄養に関する情報を提供。競泳やシンクロナイズドスイミング、フィギュアスケート、バドミントンなどでも選手に個別指導を行っている。その支援活動を取材した。

味の素ナショナルトレーニングセンター(提供写真)

日本選手団の食を支える「勝ち飯」

 味の素は、メダル獲得数の増加や国際競技力の向上を目指し、食とアミノ酸の技術やノウハウを活用したサポート活動を実施している。日本代表強化支援の中心となるのが「勝ち飯」だ。リオ五輪では、現地選手村隣接地にJOCと共同で和軽食や「鍋キューブ」などの調味料、スープ、「アミノバイタル」などのアミノ酸顆粒製品を提供する拠点を設置し、日本選手団の食を支えた。五輪期間中の拠点来場者は1712人。史上最多41個のメダル獲得を後押しした。

 勝ち飯食堂は、卓球の平野美宇や張本智和らエリートアカデミー所属選手や、NTCで合宿や練習を行う各競技の日本代表や年代別トップレベルの選手たちが利用する。ビュッフェ形式で1日3食提供。食堂の入口には「『何を食べるか』より『何のために食べるか』の勝ち飯のコンセプトが記載されている。「選手はいつ、何のために、何が必要かを意識して選んでいきます」と味の素オリンピック・パラリンピック推進室の永井敦美さんは説明する。

勝ち飯食堂入口(提供写真)

バランスの良い食事とは

 バランスの良い食事とは、主食(ご飯、パン、麺など)、主菜(肉、魚介、卵、大豆製品など)、副菜(野菜、イモ、海藻、キノコなど)、汁物、牛乳・乳製品、果物の6品目7皿。トレーの上に、その図が描かれたオリジナルのシートを敷き、埋めるように選んでいく。勝ち飯は、果物(デザート)を“別腹”として、それ以外の5品目を「5つの輪作戦」として掲げており、食事からも選手に「五輪」を意識させ、モチベーションアップを図っている。

6品目7皿が描かれたオリジナルのシート

 メニューは豊富だ。昼食と夕食は、主菜はエネルギー量別に高、中、中または低、低と4種類。主食はご飯、パスタ、麺類、副菜は5種類(サラダバー含む)、汁物(すまし汁とスープ)、デザート、おにぎり、さらに生野菜と果物のコーナーが用意されている。1品ごとに、カロリーと主な栄養素が表示されているので、自分で計算しながら選択できる。

古川管理栄養士から実践例

 勝ち飯食堂に勤務する管理栄養士・古川由佳さん(33)に、実践例を聞いた。ここを利用する選手の競技はさまざまで、小学生から大人まで年代にも幅がある。「いくら理想を掲げても、実現できなければ意味がありません。選手の生活スタイルに合わせて、実際にできるアドバイスを送っています」。

1日4500キロカロリーが必要な選手のモデル献立=ご飯、酸辣湯、オニオンポークソテー、アジのソテーキノコあんかけ、ナスとピーマンの鍋しぎ、小松菜と鶏のショウガ浸し、サラダ、牛乳、フルーツ(提供写真)

 なぜこれを食べることが必要なのか、知識を与え、理解してもらうことから始める。選手が自発的に必要なものを手にするよう促していく。「サラダがコーンだけ、マカロニだけという極端な偏りがある選手には、その場で声がけをします。できている選手には、もっと良くなる情報を提供します。1人暮らしでも、遠征先でも、外食やコンビニを利用しなければならないときでも、ふと思い出してくれるような心に響く言葉を心がけています」。

 1人で悩みを抱える選手は少なくない。例えば減量。「そんなときは、なぜ体重が落ちないのか、生活を振り返ってもらうと、必ずどこかに改善点があります」。すると次第に、余計なものを摂っていた、間食していたなどが分かってくるという。「大切なのは、自分自身と向き合うこと」。

1日2500キロカロリー必要な選手の1食分のモデル献立=ご飯、シメジと春雨のすまし汁、サンマのみりん干し、野菜炒め、モロヘイヤと長イモの和え物、サラダ、ヨーグルト、フルーツ(提供写真)

 また、成長期の選手は、家族の協力が不可欠。ジュニア選手との会話から見えてきたのは、3食の中で特に朝食の差が激しく、汁物、副菜が足りていない選手が多いということ。「質の高い食事を継続すると体は変わります。家庭でも意識してもらえるといいですね」と力を込めた。