心地良いバットの快音とともに、大きな打球が右へ左へ飛んでいく。ここは春優勝1回、夏全国制覇2回を誇る高校野球の強豪日大三(西東京)のグラウンド。代々、受け継がれる「強打の日大三」は今年も健在だ。選手たちは皆、ガッチリと鍛え上げられた体格。19日に開幕するセンバツ高校野球に向けて、練習に熱がこもっている。

監督と部長も毎日一緒に食事。選手たちとの会話も増え、笑顔があふれる。入学してから5キロ増えたという金成麗生選手(右から2人目)のセンバツでの活躍が楽しみだ
監督と部長も毎日一緒に食事。選手たちとの会話も増え、笑顔があふれる。入学してから5キロ増えたという金成麗生選手(右から2人目)のセンバツでの活躍が楽しみだ

 「うちは、特に何杯食べろとか、強制はしていないんです。まずは朝、昼、晩の3食、バランス良く食べること。あとは美味しく食べる習慣。食事が苦痛になるようなら、栄養にはならないと思うからです。選手たちには、ひと口でも自分からおかわりしろ、と言っています」と小倉全由監督は話す。

 早朝から夜遅くまで続く練習。現在は女子マネジャーが在籍し、練習前にはおにぎりなど補食をとるため、夕食のご飯は、どんぶりで1杯~3杯が目標。大体、平均2杯は食べるそうだ。

 もう1つ、「おかわり自由」で多めに用意されているのは、みそ汁。日ごろから人数よりも1.5倍多く作られ、好きなだけ飲めるようにしている。「プロテインもいいんですが、同じタンパク質をとるなら、日本にはみそ汁という素晴らしいスープがあるでしょう」(小倉監督)。みその原料、大豆には良質のタンパク質、具材にワカメが入っていればミネラル摂取と、食事からの栄養摂取を意識する。

夜は主に主菜、副菜が2種類、サラダに汁物にデザート。ご飯と汁物はおかわり自由。この日のメニューは、豆腐ハンバーグ、青梗菜とシーフードの塩炒め、唐揚げとカボチャの煮物とサラダ。豆腐ハンバーグの中身は豆腐、レンコン、タマネギ、牛ひき肉と栄養バツグン。味がサッパリしているので、ソースは甘辛く仕上げている
夜は主に主菜、副菜が2種類、サラダに汁物にデザート。ご飯と汁物はおかわり自由。この日のメニューは、豆腐ハンバーグ、青梗菜とシーフードの塩炒め、唐揚げとカボチャの煮物とサラダ。豆腐ハンバーグの中身は豆腐、レンコン、タマネギ、牛ひき肉と栄養バツグン。味がサッパリしているので、ソースは甘辛く仕上げている

 朝5時半から始まる冬の強化合宿では、選手たちは起きてすぐみそ汁を1杯飲み、ウオーミングアップをするという。「冬の寒い中だと朝起きたばかりで体温が下がっている。栄養はもちろん、心臓に負担をかけないためにも、1杯のみそ汁で体を温め、塩分を補給してから練習するのは効果的のようです」と小倉監督は説明した。

3食学食、月1回お楽しみメニュー

 日大三の食事は、早朝から夜遅くまで練習をする選手たちのパワーの源だ。45人の部員(3月1日現在)のうち、寮生38人は朝、昼、晩と3食を学食でとっている。

 バランスの良い食事で選手を支えているのは、東洋食品フードサービス日大三高営業所責任者の小寺千春さん。「本社の管理栄養士さんが1週間ごとに朝、昼、晩のメニューを作成してくれます。私たちは、それに添って献立通りに作るのですが、今どきの子どもの味付けだったり、組み合わせ、若干の材料を変えて、選手たちが飽きないよう工夫をしています」。

日大三の学食を担当している東洋食品フードサービス日大三高営業所責任者の小寺千春さん。味付けに影響するので、日ごろから体調管理には気を付けているという
日大三の学食を担当している東洋食品フードサービス日大三高営業所責任者の小寺千春さん。味付けに影響するので、日ごろから体調管理には気を付けているという

 例えば、味付けは「ご飯に合うように」と少し濃いめにする。日大三に赴任して5年。学年によって好みがあるそうで、小寺さん自身も選手と話したり、残食を見てリサーチ。好みなどはもちろん、外食で美味しかったソースの味などを再現するなど、常にノートに書き記し、研究しているという。

 「魚も、焼き魚よりは、竜田揚げや照り焼きにしてしっかりと味をつけると食が進むようです。また、お肉も厚切りではなく薄切りで枚数を多く出すなど、食べやすさ、量が多く感じる方がいいようですね」(小寺さん)。朝食も和食中心だが、選手たちの要望でカレーを出したら大好評。それ以来、たびたび朝カレーが登場するそうだ。

選手たちの寮の食事ベスト3は…1位豚汁、2位お楽しみメニューで出た角煮、3位カレー
選手たちの寮の食事ベスト3は…1位豚汁、2位お楽しみメニューで出た角煮、3位カレー

 そんな選手たちが楽しみにしているのは、月末のある1日に設定される「お楽しみメニュー」。「月に1回、ちょっと豪華だったり、旬の食材を盛り込んだり、手間をかけたメニューを作る日です。選手たちの好みを聞いてリサーチした上で、私と栄養士さんと一緒に考えています」と小寺さんは楽しそうに話す。

 昨年12月はローストポーク。過去には、鶏の唐揚げやエビフライを巻いた太巻きを作って大好評だったとか。他に、小寺さん手作りのティラミスやメロンソーダ、パフェなんてときもあるそうだ。

ある1週間の献立表。カロリーや栄養価も記されている
ある1週間の献立表。カロリーや栄養価も記されている

 「長い寮生活。食事くらいは好きなものや、ホッとするような味を心がけています。食後に“美味しかったです”なんて言われると、本当、うれしくなっちゃいますね。メニューを豊富に美味しく提供できるよう、私も勉強をして野球部のお手伝いできたらと思います」。選手により美味しく食べてもらえるように、という小寺さんの思いが日々の食事に込められている。

 選手たちは入学して平均5キロ、多い選手では10キロ近く体重が増えているという。「強打の日大三」を生む選手たちのパワーは、特別な何かではなく「よく練習し、しっかり寝て、バランス良く食べて体を作る」。そんな基本に徹した日々の生活が生み出している。【保坂淑子】

管理栄養士・真鍋千絵美のコメント

 みそ汁は良質のタンパク質はもちろん、入れる具材によってさまざまな栄養素がとれます。練習時にかいた汗で失われた塩分を補給する意味でも、とてもよいと思います。また冬合宿では、練習前にお腹の中から温めることで血行がよくなり、思わぬケガを防ぐことにもつながります。

保坂淑子(ほさか・よしこ)

 フリーライター、エディター。日刊スポーツ出版社刊「プロ野球ai」デスク、「輝け甲子園の星」の記者を務める。「輝け甲子園の星」では“ヨシネー”の愛称で連載を持つ。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツコム)も連載中。

※2017年第89回選抜高校野球出場