<騎手の食生活:大野拓弥騎手>

 体重を増やさずにパワーをつける-。競馬の騎手は厳しい体重制限の一方で、1馬力を操れるだけの筋力も必要です。レースによって違いはありますが、負担重量はおおむね52キロから57キロ。ハンデ戦といわれるレースでは49キロというケースもあります。

 負担重量イコール騎手の体重ではなく、騎手本人の体重のほかに鞍、勝負服が含まれます。週末のレースの負担重量は木曜に確定しますが、出走レースは数週間前から予定することがほとんどです。鞍などの重さは個人差はあるものの1、2キロあるため、騎手はそれらを考慮した上で体重を調整しています。

 体重制限の厳しい世界で騎手はどのような食生活を送っているのでしょうか。昨年のG1、第17回チャンピオンズカップを制した大野拓弥騎手(30=フリー)に聞きました。

第17回チャンピオンズC 1着8番サウンドトゥルー(右から3頭目、大野拓弥騎手)はゴール前で馬群を抜け出しチャンピオンズCを制する(2016年12月4日、中京競馬場)
第17回チャンピオンズC 1着8番サウンドトゥルー(右から3頭目、大野拓弥騎手)はゴール前で馬群を抜け出しチャンピオンズCを制する(2016年12月4日、中京競馬場)

中3で食べる量、質を管理

 大野が騎手を目指したきっかけは小6から始めた乗馬だった。埼玉県越谷市の出身で、親族に競馬関係者がいたわけではないが、父が競馬が好きで自然と目にすることは多かったという。

 JRA騎手になるための競馬学校は、中学卒業後に1次試験と2次試験に合格した後に入学できる。願書には体重や視力などを記入する必要があり、応募資格が定められている。

チャンピオンズCを制した大野拓弥騎手(2016年12月4日)
チャンピオンズCを制した大野拓弥騎手(2016年12月4日)

 大野は「騎手になること、競馬学校に入ることを意識して、中学時代から食事は意識していました」と振り返る。特に試験を控える中3の時は「食べるもののグラム数を量って、太らないようにしてました」ときめ細かく管理。量はもちろん、食べ物の質にもこだわった。「バランスよく食べることが大事ですけど、やっぱり野菜をしっかりと食べること」と言う。

 その意識はG1を2勝し、一流ジョッキーの域に達しようとする今も変わらない。「中学生の時も今も大事だと思って続けているのが、食べる順番です。最初に野菜から始まって、次にタンパク質。最後にご飯。血糖値の上昇を抑えることができるのですが、これを今でも実践してます」。

 騎手は決められた以内の体重に管理した上で、馬を御すパワーも必要。さらに、ゴール前でバテる馬を叱咤(しった)する。走る馬を邪魔しないために、中腰をキープし続けるためのスタミナも必要だ。

 「お腹が減っていると、ストレスがたまりますから、食べることは大事。野菜で特に好きなのはナスです」と話す。抜くべきところはうまく抜いて、体重を管理しながら週末のレースへ調整している。

大野拓弥(おおの・たくや)

1986年(昭和61)年9月8日、埼玉県生まれ。05年デビュー。11年中日新聞杯をコスモファントムで制し重賞初制覇。JRA・GⅠは14年スプリンターズS(スノードラゴン)と16年チャンピオンズC(サウンドトゥルー)の2勝。現在はフリー。