今年、春夏連続で甲子園出場を果たしたいなべ総合(三重)。チームを率いる尾崎英也監督(57)は2006年の就任以来、さまざまな取り組みを行い、全国大会出場をつかんできた。

いなべ総合の尾崎英也監督
いなべ総合の尾崎英也監督

 「親子制度」と呼ばれる後輩育成システム、野球ノート、地域清掃、トランポリンを使った練習…そして「食育」だ。

 「甲子園に出場すると、強豪校は皆、体が大きいんです。うちもあれだけの体にならないと太刀打ちできない。公立高校ですから、小さくて体の細い子が多い。その子供たちを、まずはどうにか強豪校と対抗できるようにしたいと思ったんです」(尾崎監督)。

5回に分けて1日米2キロ

 月に1度、食育専門の業者を招き、指導を受けている。体重、体脂肪を測定。それをデータ化し、個別相談を行った後、栄養学の講習を受ける。

 個別相談では、現在の体重、体脂肪を見ながら、目標体重までどう取り組んだらいいのかを話し合う。最初は受け身だった選手も、次第に「どんなものを食べたらいいですか?」と積極的に質問が出るように意識も変わってきたという。

 そこで、チームとして取り組んでいるのは「1日2キロのご飯を食べること」。1日3食でその量を食べ切るのは難しく、選手たちは練習の前後でも補食として米を食べる。

 練習前はどんぶり飯を1杯。ご飯は女子マネジャーが炊き、おかずは各自持参。すぐに食べられるものならなんでもOKだ。練習後は、練習中にマネジャーが作ったおにぎりを食べる。これで朝、昼、晩と補食2回の計5食で、ご飯2キロを平らげている。

 そのほか、ヨーグルトは毎日1個、牛乳は各自昼食時に1本、練習後に1本飲むのが決まり。「牛乳は準完全食品でしょう。タンパク質が豊富。運動をすると汗と一緒にカルシウムも出てしまうので、それを補うためです」(尾崎監督)。

夏の甲子園2回戦 いなべ総合学園対山梨学院で、最後の打者を打ち取りガッツポーズするいなべ総合学園エース山内智貴
夏の甲子園2回戦 いなべ総合学園対山梨学院で、最後の打者を打ち取りガッツポーズするいなべ総合学園エース山内智貴

 寮での食事も、選手がより野菜を食べられるようにと、みそ汁に野菜を多く入れる工夫や、ご飯には玄米を1割入れるなどの取り組みもしている。

お菓子食べない、体にプラスの間食

 「目的意識のない選手は伸びない」と尾崎監督からの指導を受け、選手たちは野球ノートに「もっと体を大きくして、パフォーマンスを上げたい」と書くようになった。コンビニでもお菓子には目もくれず、ソーセージやチーズなど、同じ間食でも自分にプラスになるものを選ぶようになった。

甲子園期間中、この日のメニューは油淋鶏、エビマヨ、卵スープ、サラダ、ご飯、食後にスイカ
甲子園期間中、この日のメニューは油淋鶏、エビマヨ、卵スープ、サラダ、ご飯、食後にスイカ

 そんな食事に対する意識の高さは、この夏の全国選手権期間中の食事にも見られた。甲子園期間中の練習は、高野連から割り当てられたグラウンドで約2時間ほど。通常の練習時間より格段に少なくなるため、それほど量を食べて補う必要はなくなる。しかし、猛暑の中でのプレーで、体力が落ちないよう食欲にも十分気をつかわなくてはならない。

いなべ総合が宿泊した伊丹シティホテルの夕食は、各テーブルに盛られた大皿を各自で取り分ける
いなべ総合が宿泊した伊丹シティホテルの夕食は、各テーブルに盛られた大皿を各自で取り分ける

 いなべ総合が宿泊していた伊丹シティホテルでは、朝はバイキングで好きなものをたくさん摂り、昼は学校が手配した軽めのお弁当。夜はホテルでテーブルごとに好きなものを取り分ける形で、さほど量の多さは感じない。

おいしそうに夕食を食べるいなべ総合の選手たち
おいしそうに夕食を食べるいなべ総合の選手たち

 「それぞれ食べ過ぎには注意しています。各自、生ものを食べない、冷たいものを控え、胃腸を大切にしています。僕らは普段から胃腸薬を飲むようにしています。胃腸が弱ると、吸収が悪くなって食べたものが消化できなくなるので」と、主将の上中裕太選手は話す。

 監督、スタッフも事前にホテル側と相談し、生ものは避け、揚げ物は少なめに、内臓に負担がかからない、できるだけ消化のいいものを出してもらうよう要望を出すそうだ。

夕食がおいしくて、食べ過ぎには注意しているいなべ総合の選手たち
夕食がおいしくて、食べ過ぎには注意しているいなべ総合の選手たち

 「大会に入ると、体作りの時期ではなく、体調をいかに維持して調整するか、という目的の方が大きいんです」と尾崎監督が言うように、選手たちは日ごろの食生活を生かしながら、各自で管理する。日ごろの指導の徹底と、選手たちの意識の高さがうかがえる。

 食事での体作りによって、いなべ総合は着実に成果を上げている。体作りは自分への投資。選手たちの後々の財産になるに違いない。【保坂淑子】

保坂淑子(ほさか・よしこ)

 フリーライター、エディター。日刊スポーツ出版社刊「プロ野球ai」デスク、「輝け甲子園の星」の記者を務める。「輝け甲子園の星」では“ヨシネー”の愛称で連載を持つ。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツコム)も連載中。