ここは、高校野球東東京地区の強豪、関東第一のグラウンドに隣接する寮。「店長~、お疲れさまです! 今日のご飯は何ですか?」と練習を終えた選手が、次々と食堂に入ってきた。

 手を洗ってスタンバイOK。食事当番の選手が並べた席につき、全員揃って「いただきます!」の元気な声とともに夕食が始まった。

全員揃っての食事。食事が終わると、再び室内練習場へ自主練習に向かう選手も
全員揃っての食事。食事が終わると、再び室内練習場へ自主練習に向かう選手も

 「うちは、グラウンドの横に寮があるので、練習が終わったらすぐに食事をとることができます。中には、自主練習の途中で食事する子も。お腹が空いてエネルギーがない状態というのが、少なくできていると思うんですよ」と米澤貴光監督は言う。

グラウンド隣接で練習後すぐに食事

 寮の食事担当は“店長”こと、シダックスフードサービス株式会社の原康浩さん。普段は朝と夕、試験期間中は昼食もまかなっている。

“店長”こと原康浩さん(左)と、この日の食事当番、秋谷峻一外野手(3年)。食事前でも、コッソリつまみ食いをさせてくれることも
“店長”こと原康浩さん(左)と、この日の食事当番、秋谷峻一外野手(3年)。食事前でも、コッソリつまみ食いをさせてくれることも

 監督からの要望は「バランスのいい食事を」。なおかつボリュームを出すため、夕食では必ず肉料理と魚料理の両方、それぞれに根菜、葉物の野菜の付け合わせがあり、フルーツも必ず出されている。なんと、たくさんの品目!

 食事のルールは、どんぶり飯を朝2杯、夜は3杯。残したらダメ。「寮の食事は美味しいです。練習が終わって、すぐに温かい食事を食べられるのが一番ですね。また、ご飯をいくらでも食べられるおかずの量なので、夜のどんぶり3杯も、全然キツくないです」とキャプテンの村瀬佑斗遊撃手(3年)は笑顔を見せる。

 「これだけの品目があると、どうしても嫌いな食べ物が入ってしまうと思うんです。でも、絶対に残したらダメなので、無理矢理でも食べていますよ」(原さん)。

この日のメニューはゆで鶏のジャージャーソースがけ、海老とイカのフリッターチリソース、中華ポテト、オレンジ、春巻、そうめん(お好みでジャージャー麺のタレ)、味噌汁(豆腐、わかめ)、ヨーグルト
この日のメニューはゆで鶏のジャージャーソースがけ、海老とイカのフリッターチリソース、中華ポテト、オレンジ、春巻、そうめん(お好みでジャージャー麺のタレ)、味噌汁(豆腐、わかめ)、ヨーグルト

オコエは何でも食べてがっしり成長

 昨年度で卒業し、楽天入りしたオコエ瑠偉外野手は、好き嫌いなく何でも食べる選手だったという。入学時には身体が細くて、原さんから見ても目立つ子ではなかったというが、食事とトレーニングの甲斐あってか、卒業時にはがっしりとした体形に成長した。

 「いつも練習から帰ると“お腹空いた~空いた~”っと言いながら食堂に来ていたのが印象に残っています。何でも食べて、大きくなっていったんでしょうね」と、原さんは振り返る。

 食事メニューは、原さん自身が作成する。年に1~2度、1週間のメニューをトレーナーに提出し、専門の栄養士のチェックを受け、それを参考にしながら作っている。これまでの人気メニューをアルバムに収め、選手から要望を聞くこともあるという。

 「これまで作ったことがない料理のリクエストをされることもあります。そういう時は、私も外食をして研究するんです。勉強になります」(原さん)。

歴代の人気メニューの写真。選手からの要望があれば、メニューに入れてくれることも
歴代の人気メニューの写真。選手からの要望があれば、メニューに入れてくれることも

誕生日にはケーキ15枚重ね“特別メニュー”

 食堂での何気ない会話が、選手の精神安定にもつながっている。正月にはおしるこ、ひな祭りにはちらし寿司、子供の日には柏餅、クリスマスにはローストチキンとケーキ、選手の誕生日には特別メニューを用意することで、寮生活でも家庭の温かみを感じられるよう心配りもしている。

食堂には1週間のメニューと、その日誕生日の選手名が書かれている
食堂には1週間のメニューと、その日誕生日の選手名が書かれている

 原さんは入学時、全員の誕生日をチェック、その前日に何を食べたいか要望を聞くという。「今はパンケーキ、アイスクリームが多いですね」(原さん)というように、選手たちの流行は、パンケーキの15枚重ね。生クリームとたくさんのフルーツで飾りつけし、ローソクを立ててお祝いをするのだという。

 「年に1度しかない誕生日。自宅にいたら、家族が祝ってくれるでしょう。だから、寮でも同じようにお祝いしてあげたら喜ぶかなぁと思うんですよ」(原さん)。高く重なった特製パンケーキを、仲間と分け合って楽しく食べることは、チームワーク強化にもつながっているようだ。

 「私が一番うれしいのは、料理が美味しいとかではなく、好き嫌いがなくなって卒業してくれることなんですよ」(原さん)。栄養だけでなく、心も養う。そんな豊かな食事が、関東第一の寮食にはある。【保坂淑子】

保坂淑子(ほさか・よしこ)

 フリーライター、エディター。日刊スポーツ出版社刊「プロ野球ai」デスク、「輝け甲子園の星」の記者を務める。「輝け甲子園の星」では“ヨシネー”の愛称で連載を持つ。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツコム)も連載中。