「何を」食べるかと同じくらい、「いつ」食べるかが重要だ。山梨学院大付(山梨)は運動後30分以内のゴールデンタイムに栄養を補給。効率のよい体作りを進め、夏の快進撃を狙っている。
ゴールデンタイムを意識
至ってシンプルだ。山梨学院大付の野球部は練習後、すぐに牛乳を飲む。寮生は30分以内に夕食を取る。牛乳はタンパク質とカルシウムを同時に取れ、筋肉を内側から冷やす働きがある。1日1リットル、朝から分けて飲みきる。「ゴールデンタイムを意識してます。タンパク質は1度に吸収できる量が決まっているので、いっぺんにたくさん飲んでも。無駄を無くすのがテーマです」。吉田洸二監督(47)は栄養を「いつ」取るかにこだわっている。
遠征でも「すぐ」の精神は変わらない。市販のプロテインや栄養補助剤を持ち歩く。夕食までのつなぎとして、帰りのバスでおにぎりやパンをつまむ。体が吸収しやすい時間に効率よく食べる。「お金をかけられない県立校で長く指導してましたから。これなら誰でも実践できるでしょ?」。
06年センバツ。吉田監督率いる清峰(長崎)は、準決勝で前田健太(現ドジャース)擁するPL学園に快勝した。ところが翌日、決勝で横浜に0-21で完敗。連戦を乗り切る体力がなかった。「中学生と高校生くらい体格が違った。地元の人たちに『技術ならともかく、田舎の学校が体力で負けるとは』と言われました」。そこから食への意識を変えた。本を読み、トレーナーに師事した。
初めはたくさん食べさせて体を大きくした。実際、今村(現広島)がいた09年はそれでセンバツを制した。しかしある時、同じように多食指導していた他校野球部員の声を聞いた。「練習よりもご飯がトラウマになっていた。決まった量を食べさせることで指導している気になっていたけど、このままだとうちも同じになる、と」。2年後、量に固執するのをやめた。
夏の大会では試合が終わると、取材を受けるより先に100%のオレンジジュースを飲ませた。疲労回復のためだ。チーズなど乳製品も多く取らせた。「タイミング重視に変えました。でも量を食べていた時と比べても、選手のパフォーマンスは落ちませんでした」。手応えを得て、山梨に赴任した。
自分の体と向き合わせる
もちろん、細身の選手には3食以外も食べさせる。1年秋からエースナンバーを背負う143キロ右腕、栗尾勇摩投手(2年)は増量強化指定選手。空腹の時間をつくらせない。「夕食の後、餅を1日3~5個食べてますね。牛乳が1リットルあるんで、プロテインを飲む回数も増えました。3年生にとっていい夏になるように頑張りたい」と体力維持に励んでいる。
逆もある。副主将の椙浦光外野手(3年)は「入ったときデブだったんです」と笑う。入学時の体重80キロから、筋肉量を増やしつつ74キロまで絞った。「自分の体と向き合って、必要な時に食べるようになった。タイミングの大事さを実感しています」。量をこなす食事法だったら、同じ成果は出ていないかもしれない。
23日には第98回全国高校野球選手権山梨大会の組み合わせ抽選会が行われる。今春は準決勝で、昨夏と同じ東海大甲府に敗れた。これから梅雨が明け、暑さが本格化してくる。「バッテリーには鉄分として、ひと口ずつレバーを食べさせようかと思っているんです。うちは今、東海大甲府、日本航空に次ぐ3番手。頑張りますよ」。目前に迫る勝負の夏へ、吉田監督は自信ありげに笑った。【鎌田良美】
一般的に運動終了から30分以内を指す。疲労した筋肉が運動で受けたダメージを回復させるため体にタンパク質を取り込もうとする時間帯。この間に少しでも早くタンパク質や糖質、ビタミンなどを摂取すると良い。栄養補給が遅れると、筋合成するために血中のタンパクが奪われる。
(2016年6月18日付日刊スポーツ紙面から)