<キッチンは実験室(52):大豆ときな粉の科学>
みなさん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回は、きな粉など大豆製品について科学していきます。
枝豆と大豆の違い
夏のビールのおつまみにぴったりなのは枝豆。この枝豆と大豆の関係、意外に知らない方が多いのです。
収穫時期が違うだけで実は、同じもの。枝豆は、豆が未成熟の緑色の状態で収穫されるもので、この暑い夏の時期に採れて出回ります。一方、秋になって成熟して実ったものが、白っぽくなった大豆です。枝豆は未成熟のため、糖質が多いのに対し、大豆は成熟する間に糖質が消費されますが、発芽のためのエネルギーを蓄えるためタンパク質と脂質の割合が多いのです。
大豆は「畑の肉」と呼ばれることがありますが、大豆のタンパク質にはリシンが多く、動物性食品のアミノ酸組成と似ていることが理由で、古くから日本人の重要なタンパク質供給源となっています。
大豆からできる粉のいろいろ
その大豆を加熱して炒ったものを粉にしたものが、きな粉です。最近は加工技術も進み、大豆からできている粉が様々あります。
●きな粉=加熱した大豆(炒り大豆)を粉にしたもの。そのまま食べられ、和菓子によく使われる
●大豆粉=生の大豆を粉末にしたもの。加熱が必要
●粉豆腐=高野豆腐をそのまま粉末にしたもの。長野県南信地区の郷土料理として使われていた
●おからパウダー=豆腐などの製造過程ででる大豆の搾りかす(おから)を乾燥させて、水分を飛ばしたもの
原料違えば栄養価も異なる
それぞれ原料が違うので、栄養価も異なります。例えば、高野豆腐を原料とする粉豆腐は豆腐や大豆の水分が抜けているため、タンパク質や鉄、脂質などの栄養価が凝縮されています。おからパウダーは、おからからできているので食物繊維が多いのが特徴です。
これらの粉は、糖質制限をしている人にとっては「高タンパク低糖質」、小麦アレルギーがある方には「アレルギー対応」や「グルテンフリー」を目的として使われることが増えています。
同じ「きな粉」でも違うとは
また、「きな粉」と呼ばれるものでも、次のように原料が違うものがあります。
●きな粉=通常の大豆
●うぐいすきな粉=青大豆
●黒豆きな粉=黒豆から作られたきな粉
うぐいすきな粉の原料は枝豆ではなく、青大豆を炒ったもの。青大豆は枝豆とは違い、熟しても黄色くならない品種なのです。黒豆きな粉は黒いかと思えば、表面の皮だけ黒いので、きな粉の色とあまり変わりません。また、「黒ゴマきな粉」といった商品がありますが、黒ゴマときな粉をブレンドしたもので、黒ゴマ由来のきな粉ではありませんのでご注意ください。
加工の仕方でいろいろ「変身」
さて、豆がいろんな加工品に「変身」するのは皆さん、ご存じですよね。ここで今一度、工程から出来る加工品を整理していきましょう。
(1)油を圧搾
大豆は枝豆や小豆と違って高タンパク高脂質。つまり、油が含まれている豆ですので、圧をかけて搾ると大豆油ができます。その残り、脱脂大豆を加工したものが「大豆ミート」と呼ばれる大豆タンパク食品です。肉よりも脂質が圧倒的に少なく、植物性由来でコレステロールが少ないので、ダイエットしている人に喜ばれています。
(2)炒る
火にかけてじっくりと炒ると、節分の時に「福豆」として食べられる炒り大豆ができます。それを粉にしたのがきな粉です。炒り大豆はそのまま食べられますので、自宅でフードプロセッサーやミルにかければ、きな粉が作れます。また煮ても火が通りやすく、乾燥しているので水分を吸いやすいのが特徴。混ぜご飯を炊く際にそのまま入れられますし、ヒジキなどと一緒に煮ものも作れます。
(3)水で煮る・粉砕
一晩以上浸水し、コトコト煮てミキサーなどにかけて濾(こ)すと豆乳が作れます。その残りかすがおからです。
豆乳を加熱すると、表面に油とタンパク質が固まってきます。それが湯葉。豆乳をにがりなどの凝固剤で固めたものが豆腐です(凝固剤には硫酸カルシウム、塩化マグネシウム(にがり)、グルコノデルタラクトン、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどがありますが、それはまた別の機会で説明しますね)。豆腐には圧をかけた木綿豆腐、口溶けが滑らかな絹ごし豆腐、そのままパックに詰めて充填させる充填豆腐などがあります。
その豆腐を凍らせて水分を抜いたものが高野豆腐。油で揚げたものが厚揚げや油揚げ。ヒジキや枝豆、ニンジンなどを入れて成形して油で揚げたものが、がんもどきになります。
(4)煮る
大豆を煮て蒸した後に麹、塩を加えて発酵させるとしょうゆ、みそになります。また納豆菌を入れて発酵させたものが納豆。テンペ菌を入れて発酵させるとインドネシアなどの伝統食材のテンペになります。
作ってみよう!大豆からきな粉
今回は「大豆からきな粉」のレシピを紹介します。実は簡単に作れるきな粉。わらび餅や白玉など夏のお菓子にもピッタリです。余ったきな粉は、バターと砂糖と混ぜてきな粉クリームにすれば、トーストしたパンに塗るなどアレンジもできます。
■材料
大豆(生または炒り大豆)
■作り方
炒り大豆の場合は(3)からスタート
(1)生の大豆はさっと水で洗い、汚れをとっておく
(2)フライパンで弱火で10~20分乾炒りする。炒りたての香りがしたら完成(オーブンで低温で30分加熱してもOK)
(3)粗熱をとってフードプロセッサー(ミル)にかける。1~2分を数回繰り返し、好みの粗さにしたら完成
<アレンジレシピ~>
●甘めのきな粉の配合
安倍川餅のような甘めなきな粉の出来上がり。お餅、白玉、団子などにお好みでまぶしてみてください。
・きな粉 大さじ1
・砂糖 大さじ1
・塩 ひとつまみ
●パンにピッタリ!きな粉クリーム
常温でやわらかくしたバターにきな粉と砂糖と塩を加えたら出来上がり。トーストしたパンに。
・きな粉 大さじ1
・バター 大さじ1(マーガリンでもOK)
・砂糖 大さじ1
・塩 少々
●混ぜるだけのきな粉あめ
きな粉と水あめを木べらで混ぜた後、冷やし固めて好きな大きさに切ったら出来上がり。丸めてもOK。
・きな粉 50g
・麦芽水あめ 50g
自分できな粉を炒ってみると、大豆の品種、深炒りの香り高いものまでいろんな味が楽しめます。奥が深いきな粉の科学。時間のある夏休みにぜひ大豆を自由研究のテーマにしてはいかがでしょうか。