昨年12月に行われた全国高校選抜バスケットボール大会(ウインターカップ)で、男女最多となる21度目の優勝を果たした桜花学園(愛知)は、食事管理を基礎に、他チームとは一線を画す肉体を作り上げている。

 チームに就任して31年目。アメリカプロリーグWNBAでのプレー経験を持つ大神雄子(トヨタ自動車)や渡嘉敷来夢(JX-ENEOS)らを筆頭に、数えきれないほどの日本代表選手を育ててきた井上真一コーチ(70)は、食事に力を入れる理由についてこのように話す。

 「いくらトレーニングをしても食べるものを食べなきゃ勝てないからです。(そう思い始めたのは)いつごろだったかな…少なくとも20年前から考え方は変わっていません」。

 “高校バスケ界の女王”とも称される常勝軍団は、一体何をどう食べて強くなってきたのか。アシスタントコーチの小川由夏さん、寮母の寺廻唯さん、2人の同部の卒業生に聞いた。

ウインターカップで優勝を決め、喜ぶ桜花学園の選手たち。左から4人目が井上真一コーチ
ウインターカップで優勝を決め、喜ぶ桜花学園の選手たち。左から4人目が井上真一コーチ

◎基本理念
 井上コーチの考え方はシンプルだ。「米をしっかり食べて、甘いものはとらない」。これを土台に管理栄養士と給食業者が献立を決め、寮を取り仕切る寺廻さんが細かいルールを設定している。「チームは家族」という井上コーチの理念に基づき、部員は地元出身者も含めて全員寮生活。「同じ釜の飯を食べて苦楽を共にすることで、チームが成長し絆も強くなるんです」と寺廻さんは説明する。

◎夕食
 練習終了後30分以内に、すぐに食べられる状態になっている。品目は多めで、サラダ、前菜などに加えて肉、魚料理が2品出ることも。「品目や環境自体は本当に恵まれているんですが、動いてすぐに食べなければいけないので、大変だと思います」と小川さんは話す。

 ごはんの量は1食350グラム以上がノルマだ。およそ1合のごはんがよそわれる器は「どんぶりです。女子高生が食べるようなものじゃない」と寺廻さん。特に線が細かった粟津雪乃(3年)は倍量がノルマで、入学当初は1時間以上をかけて泣きながら食べたという。「3年間のどの練習よりも一番つらかったです」と笑う粟津の体重は、入学時より6キロほど増え、ウインターカップでも体の強い留学生選手を相手に堂々とプレーしていた。

◎朝食
 夕食で量をしっかりとることに重点を置き、これまで朝食にはそれほど厳しいルールを設けていなかった桜花学園だが、昨年から朝食にも目を向けるようになった。「スタッフ間で『朝ごはんをしっかり食べないと体ができてこない』という話になって、昨年から朝食でもごはんの量をはかるようになりました」(寺廻さん)。

 体育館が住宅街に所在することもあって、同部は朝練習を実施していない。しかし、朝食をきちんと食べることを目的に、20分間のランニングを導入することになった。「寝起きで食べるのはしんどいので、体が起きた状態で朝ごはんを食べようと。体力をつけるための朝練というよりは“朝ごはんを食べるため”の朝練です」(寺廻さん)。

優勝して写真に納まる桜花学園の選手たち(撮影・丹羽敏通)
優勝して写真に納まる桜花学園の選手たち(撮影・丹羽敏通)

◎間食
 間食は厳格に禁じられている。清涼飲料水(炭酸飲料も含む)、スナック菓子、チョコレート、菓子パンは全面NG。惣菜パンも国体が終わる10月までは禁止だ。

 去年までは干し芋など自然の甘みを持つものは許可されていたが、寺廻さんが禁止とした。「出されたものをしっかり食べることが基本なのに、出された食事を残して、自分の好きなものを食べるような選手がいたんです。それでは元も子もないですから、先生に許可をとって禁止としました」。おなかがすいたら余ったおかずやごはんをおにぎりにして食べるか、エネルギーゼリーをとることになっている。

 「甘いものが食べられないのはちょっとしんどかったですけど、選手として大事な時期だということは理解していました」と、小川コーチは自身の高校生時代を振り返る。

◎全国大会中
 最長で6日間の連戦が続くインターハイ、国体、ウインターカップでも食事には気を配っている。約1カ月前には宿舎からメニューを聞き、内容によっては変更を要望する。

 「お米をたくさん食べられるように納豆やキムチなどを用意してもらったり、無理なら持ち込ませてもらえるようにお願いします。終盤になるとお米が入らなくなってくるので、麺類に代用してもらったりもしますね。ウインターカップはまだしも、夏場のインターハイは余計に食事が入らなくなって大変です」(寺廻さん)。

 夏冬合わせて43度の頂点を知る女王は、毎年さらに高い場所-アジアであり世界を意識したチーム作りを行っている。ごはんを食べることを主軸に置いた食事への取り組みも、その躍進の大きな一端を担っている。【青木美帆】