牛乳を飲むと便が緩くなる、下痢をする、おなかが張る、ガスがたまる、ゴロゴロやぐるぐる鳴るといった症状が出る人がいます。「昔は牛乳が飲めたのに、今は飲めなくなった」と話す年配の方もいます。原因は「乳糖不耐」かもしれません。

乳糖不耐はけっして病気ではありません。乳児期によく見られる食物アレルギーの1つである牛乳アレルギーでもなく(原因と発症のメカニズムが全く異なる)、いわば「自然な体質」と考えられるものです。実は無症状であっても、日本人のほとんどが乳糖不耐であるというデータもあります。乳糖不耐とはどんなものなのか、深掘りしていきます。

おなかがゴロゴロしたり、便が緩くなる原因は「乳糖不耐」。アジア人特有の「体質」でけっして病気ではなく、牛乳アレルギーでもありません
おなかがゴロゴロしたり、便が緩くなる原因は「乳糖不耐」。アジア人特有の「体質」でけっして病気ではなく、牛乳アレルギーでもありません

乳糖を小腸で分解するラクターゼ

まず乳糖(ラクトース)とは、哺乳類のミルク特有の糖質で、牛乳100ml中に約4.5gも含まれています。甘みは弱く、ショ糖(砂糖)の約6分の1(16%)程度。二糖類の一種で、ガラクトースとグルコース(ブドウ糖)という2つの単糖が結合した構造をしています。

乳糖は人間の体内に入ると、小腸で「ラクターゼ」という乳糖分解酵素によって分解・吸収されてエネルギー源となります。しかし、ラクターゼが欠乏していたり、その働きが弱くなったりすると、消化されなかった乳糖は小腸を通過して大腸に送り込まれてしまいます。

ラクターゼ不足で乳糖が大腸に

大腸は小腸のように乳糖を分解・吸収する機能はありません。分解されなかった乳糖は腸内細菌の発酵作用により代謝され、大量の有機酸を産生し、その中の酪酸(らくさん)の一部は大腸(上皮細胞)で吸収、利用されることになります。

善玉菌の作り出した乳酸や酢酸の有機酸は、日和見菌のエサとなって酪酸となり腸内環境を整える一方で、腸を刺激して腹痛をまねくことがあります。同時に日和見菌から産生される二酸化炭素や水素やメタンなどのガスも腸を圧迫し、おなかの張りや腹痛や腹鳴(ゴロゴロ感)を誘発することがあります。また、高い浸透圧を示す乳糖は大腸に大量の水分を呼び込み、下痢をもたらす要因にもなります。

このようにして小腸のラクターゼ不足によって乳糖が大腸に送り込まれた結果、おなかでの不快感が生じるのが乳糖不耐です。一般的には牛乳を摂取してから20分~2時間後に症状が現れます。

日本人は大人になると分泌量低下する

ラクターゼは授乳期に活発に小腸で分泌されますが、離乳期を過ぎて乳以外の食品から栄養を摂るようになると分泌量が低下し始め、その後も年々減少していき、成人ではほとんど分泌されなくなります。このラクターゼの減少は、日本人を含む世界の成人人口の3分の2にあたる約50億人に共通する遺伝的な形質(自然な体質)だと言われています。ラクターゼが十分に分泌される3分の1の人(約25億人)は、元々動物の乳を食料としていた北欧などの牧畜民で、農耕民族の日本などのアジアの成人はラクターゼを持っていない比率が高いというのです。

先天的な乳糖不耐はごくまれで、ほとんどが成人になるにつれて分泌が少なくなるという後天的なもの。気になる人は、乳糖不耐かどうかを検査する方法もあります。

飲める人は大腸で腸内細菌が乳糖を分解

とは言うものの、ラクターゼを持たないからといって乳糖不耐の症状が現れるとは限りません。国内におけるミルク科学研究のパイオニアとして知られる東北大学名誉教授の齋藤忠夫氏はその理由をこう説明します。

「成人で牛乳が飲める方は、小腸でのラクターゼによる乳糖分解が2割程度は働いており、分解されない8割の乳糖は、大腸で腸内細菌による乳糖分解が起こっていると推定します。毎日牛乳を飲んでいると、大人になるにつれてラクターゼの分泌が増えるということではなく、ラクターゼの欠損を、大腸にいる乳糖分解能力の高い善玉菌や日和見菌が乳糖を分解してくれるため、乳糖不耐が起こらないということです」。日本人でも日頃から牛乳や乳製品を頻繁に食事に取り入れている人は、腸内の細菌バランスが乳糖分解型に順応していると考えられているのです。

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