<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(11)>

Q、ベジタリアンで動物性の食品を食べません。スポーツに影響はないでしょうか?

A、「菜食主義者」と訳されるベジタリアンでも、どのような理由があっても、どのようなかたちであっても、スポーツをするうえではたんぱく質を十分に摂取しなければいけません。たんぱく質のうち毎日きちんと摂取すべき必須アミノ酸は、動物性食品のほうが含まれる量は多いのですが、植物性食品でもけっしてカバーできないわけではありません。

ベジタリアンには、いくつかのタイプがあります。動物性食品をまったく食べない「ビーガン(ピュアベジタリアン)」、肉や魚は食べなくても卵や乳製品は食べる「ラクトオボベジタリアン」、魚は食べる「ペスコベジタリアン」、少量の鶏肉や魚は食べる「セミベジタリアン(ポーヨーベジタリアン)」などです。

また、宗教上の理由、たとえばイスラム教には、「ハラール(許された行為や物)」と「ハラーム(禁じられた行為や物)」と呼ばれる厳格な規範があり、特に食においてのハラームとして知られているのが、豚肉とアルコールです。

豚肉や、ベーコン、ソーセージなどの加工食品、ラードや調味料、添加物などの豚由来成分も、イスラム教は禁止しています。アルコールも、酒に限らず、醬油やみりんに含まれる微量のものまでも口にしないイスラム教徒もいます。一方で、豚以外では、イスラム教の教えに基づく方法で処理された肉(ハラール肉)は口にすることが許されています。

日本の精進料理も、殺生を戒める大乗仏教の教えに基づいて鳥獣の肉や魚など動物性の食材を避けたもので、穀類、野菜、海藻など植物性の食材を用いている点は、ベジタリアンの食事メニューに近いものがあります。

こうした食に対する倫理、主義、信念、宗教上の理由などに基づく生活習慣の違いは、スポーツの世界においても尊重されなければならず、選手に対する細やかな配慮が求められるのが原則です。

スポーツをする人が動物性の食品をいっさいとらずに栄養のバランスをとるのはたしかにむずかしいかもしれませんが、けっして代替できないものではありません。

要は、どのような理由があっても、どのようなかたちであっても、体組成、特に筋肉にとって、ひいては健康を維持するためにも、たんぱく質を十分に摂取しなければいけないことは紛れもない事実です。

たんぱく質を摂るために代替食品で

前述したとおり、毎日食事できちんと摂取しなければいけない必須アミノ酸は、動物性たんぱく質のほうが植物性たんぱく質よりも多く含まれていますが、動物性食品を食べないならば、あとは植物性食品などの組み合わせでなんとか工夫するしかありません。

ごはん、うどん、そば、食パンなどの毎日の主食にも、たんぱく質が含まれています。そら豆、ブロッコリー、納豆や豆腐、豆乳などの大豆製品は、植物性食品のなかでもたんぱく質が群を抜いて多く含まれていますし、ごはんに納豆といったように、穀類と豆類を組み合わせると、それぞれに足りない必須アミノ酸を補い合うこともできます。

また、食品中に含まれる必須アミノ酸のバランスを評価したものを「アミノ酸スコア」といい、その値が100に近いほど良質なたんぱく質の食品です。大豆を原料にしたプロテインなど、アミノ酸スコアが100になるように調整されたサプリメントは動物性たんぱく質と同等で、安心して利用できます。

動物性食品をとらないと、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB12などの微量栄養素が不足しがちですが、これらはサプリメントで補うことができます。

(つづく)