脂の多い肉が大好きな人や揚げ物が好物の人は、油脂の少ない料理に物足りなさを感じることもあるでしょう。実は、油脂の多い「こってり系」の食事をおいしく感じるのには、理由があるのです。

油脂はうま味を強める

うま味成分のグルタミン酸(昆布、チーズ)、イノシン酸(肉、かつお節)、グアニル酸(干しシイタケ)、コハク酸(貝)などは、アミノ酸、有機酸、核酸などでいずれも水溶性です。これに油脂が加わることで食品中や口腔内で乳化され、うま味を強めていることがわかっています。料理にちょっとゴマ油やオリーブ油を垂らしたり、ラーメンのスープをおいしく感じたりするのは、油脂が含まれ、うま味が増強されているからなのです。

油脂はコクを強める

料理の「コク」とは、食品の濃厚感や広がり、複雑さ、持続性などを表すもので、食感なども関わっています。油脂を加えると味に重量感が増し、より濃厚に感じるようになるのです。

油脂は香りを強める

さらに、おいしさの要素に「香り」は重要です。植物などの香りの成分は脂溶性のものが多く、油脂に溶けやすいため、料理の香りを強めます。これが食欲をそそるのです。

例えば、鼻をつまんで香りを感じないようにして食べると、いつもより味を感じられないはずです。食品の香りの重要性を実感できることでしょう。

油脂をうま味として感知する

ここまでで油脂は食べ物のうま味やコク、香りを強めると説明しましたが、私たちの体も、油脂を必要なものと受け止めています。

舌には、味覚を感じる味蕾(みらい)という器官がありますが、甘味やうま味を感じる細胞の多くは脂肪酸にも反応することがわかっています。つまり、油脂を甘味やうま味と捉えているということです。生きていくためには、エネルギーである糖の甘味、タンパク質のうま味を感知することは必然で、同様に必須脂肪酸も感知することが必要だからではないかと推測されています。

油脂は快楽を引き起こす

そんな油脂は、依存性や中毒性があるとも言われています。ある研究によると、ラットの口にリノール酸を豊富に含むエサを入れたところ、小腸上部からカンナビノイドという大麻に含まれる生理活性物質が分泌され、迷走神経を介して脳に伝わり、快感物質であるドーパミンが分泌されたといいます。その後、そのラットは油脂を好んで食べるようになったと報告されています。

油で揚げたスナック菓子を食べると手が止まらなくなったり、揚げ物を食べないと何か物足りないと感じたりするのは、すでに体が油脂に依存しているのかもしれません。そんな方はメタボやダイエットの観点からも自身の食生活を見直してみてください。

油脂を意識的に食べ過ぎない

病気を防ぎ、健康に生活するには、「油脂にはおいしさを強める力と依存性がある」ということを理解し、意識的に食べ過ぎないことが大切です。ラットの研究で、リノール酸を直接、十二指腸に入れてもドーパミンは分泌されなかったことから、口から食べることで快感物質が分泌されるとも言えます。口の内でゆっくり味わって食べることで、少量の油脂でも満足できるはずです。実践してみてくださいね。

管理栄養士・今井久美