大学男子バスケットボール界の強豪・東海大は「体重を増やしながらパフォーマンスを上げる」を合言葉に食事指導を行っている。

提携の定食屋「直屋」で夕食をとる選手たち。昼営業しかしていなかったお店に当時のマネジャーが頼み込み、夕食の提供が実現した

 スピーディーで華麗なプレーに目がいくバスケットボールだが、28メートル×15メートルの狭いコートで激しい身体接触が頻繁に発生するという特性も持っている。学生年代は特に上のカテゴリーや世界で戦うと、技術を発揮するまでもなくフィジカルで圧倒されてしまうことがほとんどだ。

 男子日本代表の強化にも携わった経歴を持つ同部ストレングス&フィジカルコーチの小山孟志さんは「いくらスピードや瞬発力があっても、体重が軽いままでは格上には通用しない」と断言する。目標体重は身長マイナス98キロ。180センチなら82キロの体重で走って跳べる体を作るのだ。同大学には体育会クラブ所属選手の体をあらゆる面からサポートする「スポーツサポートシステム」があり、そこに在籍する管理栄養士と相談の上、選手の体づくりを進めている。

トレーニングを行う選手たち。「トレーニング・食事・休息」の3本柱で体作りに取り組んでいる

「エリート集団」自分で食事管理

 また「体重を増やしながらパフォーマンスを上げる」という到達点への道のりはある程度、選手個々に委ねられているのも大きな特徴だ。

 チームスタッフが把握するのは、毎朝ウエートトレーニング前に計測する体重のみで、誰が何をどのように食べているかというところまではチェックしない。「以前は選手それぞれの総カロリー量や体脂肪などを管理していましたが、今は体重の増減しか見ていません。卒業後のステージに向けて、スタッフがいなくても自分でコンディションを管理できるようになってほしいからです」と小山さん。「エリート集団」としての地位が確固としたものになっただけに、入部してきた選手たちが高い意識を持っていることも理由の1つである。

 それでは同部の取り組みを具体的に見ていこう。

【スタート】

トレーニング合宿時の食事。主菜が2つ以上、副菜が3つ、フルーツかサラダという内容

 シーズン前の春先に行われるトレーニング合宿は、トレーニング環境と食事の環境が整った施設で実施される。この合宿の狙いは理想とされる食事を体感し、「どのような生活を行い、どのように食べたら体重が増えるのか」を選手各自が把握すること。ご飯の量は1食500グラム以上がノルマで、体重増が求められている選手はさらに多い。2日間で体重が4キロ増えた選手もいるほどだ。

【朝食】

朝食。おかずは基本的にどれも大盛りで、牛乳は何杯も飲む選手も多い

 7時からのウエートトレーニング後に学食(ビュッフェスタイル)で朝食をとる。ごはん、汁物、おかず3、4品にサラダ、フルーツといったメニューをまんべんなく食べる。

 朝食では4~5人の縦割りで作る「グループ制度」が大活躍中。朝食を食べる習慣づけのために選手たちが作った制度で、「去年は寝坊や夜更かしで朝食を取らず体重を落とした選手が多かったので、今年から始めました。お互い起こし合ったり、体重が増えていない下級生にはアドバイスしたりしています」と三ッ井利也(4年)。朝食をとらなかった選手にはペナルティーとしてランニングが課される。

【昼食】

 学食や近隣の定食などで、各自が自由に食べる。三ッ井は自炊派。「授業に行く前にごはんを炊いておいて、実家から送られてきた食材でショウガ焼きや野菜炒めなど、おかずを何品か作って食べています」。

【補食】

 午後5時からの練習前に軽く食事をとる。昼食と同様、学食や定食屋でとる選手が多い。

【夕食】

「直屋」で提供される献立。その日の仕入れに応じてベストなメニューが出る

 午後8時ごろに練習が終了すると、部が3年前から提携している定食屋「直屋」に移動し、夕食を食べる。

 ご主人の栁川幸雄さんはプロアスリートの食事に調理に携わった経歴を持ち、各選手の目標体重を伝える以外のリクエストをせずとも栄養バランス、味、量ともに抜群の食事を提供してくれる。配膳を担当する奥さんの敦子さんは選手の食べ方や好き嫌いまで細やかにチェックしてくれる「隠れお母さん」(三ッ井)。食が細かったり苦手な食べ物があったりする選手には「もっと食べなきゃ」と声かけ。敦子さんのおかげで嫌いなものを食べられるようになった選手もいるという。

「直屋」を切り盛りする栁川家のみなさんと部員たち。前列右から息子の直幸さん、敦子さん、幸雄さん

 これらの食事をベースとし、選手たちはそれぞれの体質や特徴によって食べ方を試行錯誤する。

 食が細く1回の食事で量がとれないという中山拓哉(4年)は、早朝、昼前、就寝前におにぎり2個程度の補食をプラスし、入学時から13キロの増量に成功。181センチ82キロの体格で「1年生のときは上級生に吹っ飛ばされてばかりでしたが、今はマッチアップする相手が(身長が高く体重が重い傾向にある)センターでも当たり負けしない自信があります」と話す。

 逆に一食でたくさん食べられる三ッ井は、一食のごはんの量を450グラム以上とるように心掛けている。トレーニング合宿では191センチ96キロまで増量したが、現在は少し絞って93キロをキープしている。「(食べる量や食べ方の)目安は教えてもらったらあとは本人の意識次第です。しっかり取り組んでいるやつは成果が出ていますし、僕自身食事の大切さを4年間で痛感しました。下級生にもそれを伝えたいです」

 一昨年、昨年は全日本学生選手権(インカレ)準優勝で涙を飲んだ。同部にとって3年ぶりとなる全国制覇への道筋は、日々の食事から始まっている。【青木美帆】

東海大男子バスケットボール部

1960年創部。2000年に陸川章監督が監督に就任し、04年に竹内譲次(東京アルバルク)、石崎巧(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)らを擁し関東大学リーグ1部に昇格すると、翌年にはインカレ初優勝を達成。プロチームが上位を占める全日本総合選手権(オールジャパン)で優勝することを目標に掲げ、日本代表として世界を相手に戦える人材を多く輩出している。

管理栄養士・山崎みどりのコメント

 当たり負けしないためには筋肉が必要で、筋肉を増やすためには食事が重要です。ハードな運動でエネルギーを使い、体重もしっかり管理する。食べるには大変な量でしょうが、周りのサポート体制もあり、補食まで考えて食べているのは、とても良いです。また、今後のために自分で考えるのも大切です。全ての運動部に関係しますが、「トレーニング・食事・休息」の3本柱をしっかり理解し、管理できることが強いチームの秘訣かもしれません。