取材に伺った日、食事を担当されていたお母さんたち。みなさん、とっても楽しそう!
取材に伺った日、食事を担当されていたお母さんたち。みなさん、とっても楽しそう!

 週末のお昼。常総学院(茨城)のグラウンドには、いい匂いが漂っている。匂いの元は、グラウンド横にあるプレハブの食堂。毎週土日には、選手の母親たちが昼食を作りに集まっているのだ。

 「寮で生活する選手たちは、日ごろから学食やお弁当が中心になってしまいます。そこで、少しでもお母さんが作ったあたたかいご飯を食べさせてあげよう、ということから始まったようです」と佐々木力監督。私も、常総学院の取材に長く通っているが、土日に伺うとこの光景は当たり前のよう。しかも、いつも選手と同じ食事をごちそうに。温かい食事に、いつも気持ちがほっこりする。

交代で当番、伝統のノートにメニューを記録

食堂には、代々受け継がれてきたお母さんたちのノートがズラリ。これもまた1つの歴史です
食堂には、代々受け継がれてきたお母さんたちのノートがズラリ。これもまた1つの歴史です

 食事を担当するのは、1、2年生のお母さんたち。10~11人を1組として、1カ月に1~2回「登板」が回ってくる。メニューは重ならないように、代々受け継がれている食事用ノートにメニュー、買ったもの、量、材料費などを細かく記入。次の担当者は、それを元にメニューの作成を行うのだそうだ。

 1回の食費は3万円。「欠かせないのは、お肉。代金も1番多くかかるので、牛肉、豚肉、鶏肉のどれにするかを最初に決めて、あとは野菜を多めに用意する、という感じです」とお母さんたちは工夫をこらしている。

 買い物は、近隣に住むお母さんがまとめて購入するときもあれば、それぞれ分担して持ち寄ることも。いつも、その日の当番が終わった後、次のメニュー、買い物の相談と割り当てを決めている。

母と息子のふれあいの場

この日の食事は焼肉、サラダ、けんちん汁、モツ煮込み
この日の食事は焼肉、サラダ、けんちん汁、モツ煮込み

 担当制はなんだか大変そうだが、食事を作って選手たちに振る舞うお母さんたちは、とっても楽しそうに見える。

 「お母さんたちにとっても、子供たちと会えるいい機会になる。この年頃の子供たちは何かと両親を遠ざけたい時期。でも、こうしてご飯を作ってくれると、子供たちとの会話も生まれるし、感謝の気持ちも芽生える。いい機会になると思っています」(佐々木監督)。

 お母さんたちも「寮生は、こういう時じゃないと会えないから。子供たちを見て、あ~太ったね、とか、大きくなったね、たくさん食べてくれたからだね~なんて言い合って、みんなで喜んでいますよ」と言うように、母子のコミュニケーションの場にもなっている。

天気の良い日は、選手たちはグラウンドのスタンドで食事
天気の良い日は、選手たちはグラウンドのスタンドで食事

 週末が練習試合になると、試合前のお昼は軽め。残ったご飯はすべておにぎりにして、試合後に食べてもらうように用意する。チームのスケジュール、選手たちの動きに合わせて臨機応変に対応されているのも、さすがだ。エースの鈴木昭汰投手(3年)が、昨秋から「スタミナ面が改善された」と言っていたのも、この食事の支えがあったからこそ。まさに、お母さんパワーが陰で、選手の体を支えている。

 先日終了したセンバツ高校野球では、初戦で鹿児島実(鹿児島)に2-6で敗れたが、選手たちは夏にリベンジをかけ、猛練習中。「夏に向けてもう1度努力をして、勝てる投手になって戻ってきたい」(鈴木)。夏の甲子園でお母さんたちに感謝の勝利を! 選手とお母さんたち。二人三脚の勝負はまだまだ続く。【保坂淑子】

管理栄養士・山崎みどりのコメント

 写真を見ていても、選手やお母さん方が楽しそうな食事であることが伝わってきます。寮での食事はきちんと考えてあるでしょうが、やはりお母さんの味は格別です。「野菜を多く」という工夫がしっかり伝わってくるメニューです。