<スポーツする人の栄養・食事学/第2章 スポーツをする人はなにをどう食べたらいいのか(7)>

Q、スポーツには欠かせない水分補給ですが、注意しなければならないことはなんですか?

A、スポーツをするにあたって、脱水症状や熱中症の予防は最優先です。「暑さ指数」を指標とした運動指針に基づき、のどの渇きを感じる前に強制的に水分補給タイムを設けるなどして万全を期すことが強く求められます。真水よりもスポーツドリンクがおすすめで、試合や練習の前・中・後のどのタイミングで水分補給するかも大きなポイントです。

スポーツ現場での指導法で180度転換したとしてよく話題になるのが、水分補給の考え方ではないでしょうか。昔は、「練習中には絶対に水を飲んではいけない」だったものが、今では「試合や練習の前・中・後には水分補給をするのが常識」となりました。「練習中に水を飲むのは、さぼっている証拠」と、指導者が真顔で選手たちを𠮟りつけていた時代とは隔世の感があります。

男性の体の約60%、女性の体の約50%は、水分で占められています。脂肪組織にはわずか10~15%の水分しか含まれていないのに対して、筋肉組織には約70~75%の水分が含まれているので、特に筋肉質のアスリートの場合、体の水分の占める割合は高くなっています。

運動をはじめると、体内では熱が産生されはじめます。体温が1℃上昇すると内臓機能は10%低下するといわれ、大量に汗をかいて熱を外へ放射しながら体温上昇を抑制して、体を元の状態に戻そうとします(上の図)。血液中の水分が体内の熱を吸収して汗として体表面に分泌され、それが蒸発するときに気化熱となって熱を奪うという仕組みです。

炎天下でラグビーの練習を2時間半続けたとすると、選手は約1500mlの汗をかきます。練習前に補給した水分も、食事で摂取したビタミンやミネラルも、かなりの量を失ってしまいます。

のどが渇いたと感じる前に水分補給

脳が渇きをキャッチするには時間差があるため、「のどが渇いた」と感じたときにはすでに脱水がはじまっていて、心拍数が増え、筋肉からも水分が奪われて運動能力が低下してしまいます。

脱水症状がさらに進行すると、熱中症になる危険性が高まります。体内に水分が不十分であったら、汗をかきたくてもかきにくく、血液の量は減り、ドロドロして流れも悪くなり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。

熱中症を予防するために、「暑さ指数(湿球黒球温度 WBGT:Wet Bulb Globe Tempera-ture)」を指標とした運動指針があります(下の図)。暑さ指数は、人体と外気との熱のやりとりに影響が大きい気温(1割)、湿度(7割)、輻射熱(2割)の3つの効果を取り入れて決められ、摂氏度(℃)であらわされます。

屋外:WBGT(℃)=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

なぜ、湿度が7割を占めているかといえば、湿度が高いと汗が蒸発しにくく、体から熱を放出する能力が低下し熱中症になりやすいからです。

しかし、その測定には専用の機器を用いるため、実際には暑さ指数に相当するおおよその気温(湿球温度や乾球温度)を指標に、どのような運動をしたらいいかを判断するようになっています。暑さ指数が28℃(湿球温度24℃、乾球温度31℃)を超えると、熱中症患者の発生率が急増しています(環境省ウェブサイト)。

スポーツをするにあたっては、この運動指針に基づいて熱中症の予防に万全を期すことが強く求められます。

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