<女は筋肉 男は脂肪/第4章:今、気にすべきは 女性は「筋肉」をつける・男性は「脂肪」を減らすこと(3)>

ホルモンの重要な作用

私たちの体が成長するにあたっては、「内分泌系」と呼ばれる調節機構が重要な働きをしています。

内分泌系とは、脳の視床下部から発する情報を「ホルモン(hormone)」という化学物質に変換し、それを血液中に分泌して器官や細胞にまで運び、そこで代謝や発育促進といったさまざまな生理作用を行う全身調節システムのことです。

ホルモンのおもな働きは、発育・成長の促進、生命の維持・存続、体内環境の恒常性(ホメオスタシス)の維持が挙げられます。

このうちの発育・成長の促進に関わる代表的なホルモンは、次の2つです。

成長ホルモン(growth hormone:GH)
 脳下垂体前葉から分泌され、筋肉や骨の成長や、臓器で行われる代謝を促進する。

性ホルモン(sex hormone)
 おもに生殖腺から分泌され、男性ホルモン(雄性ホルモン)と女性ホルモン(雌性ホルモン)があり、性ステロイドともいいます。男性は精巣の間質細胞から分泌されるテストステロン、女性は卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)が代表的な性ホルモンです。

実は、こうしたホルモンの多くは加齢とともに減少し、さまざまな調節機能の低下を引き起こしてしまいます。

成長ホルモンが減少すると、腎臓や甲状腺の機能低下を引き起こし、骨量の減少やサルコペニア、内臓脂肪蓄積型肥満のリスクを高めてしまいます。ほかにも、エネルギー代謝障害、心肺機能の低下、免疫機能の低下などが生じます。

女性ホルモン・エストロゲンの大きな影響

卵巣から分泌されるエストロゲンは、分泌量が女性の生涯を通じて変化し、ただ生殖に関わるだけでなく、女性の全身の組織に対してさまざまな働きかけをする影響の大きさは計り知れません。

女性は、幼年期・少女期を経て、11歳ごろから思春期がはじまり、月経もみられるようになります。エストロゲンの量は次第に増加して20歳ごろには最高のレベルに達し、40歳ぐらいまでの性成熟期の間は、そのレベルは維持されます。

ところが、40歳ごろからエストロゲンの分泌は低下しはじめ、多くの女性は50歳前後になると「閉経」を迎えます。1年(12カ月)以上の無月経を確認することによって、医学的には最後の月経の年月日をもって閉経した日とします。

閉経は、卵巣機能が永久に停止したことを意味し、この時期に急激なエストロゲンの分泌低下がみられ、それにともなって体にさまざまな変調をきたすのが、いわゆる「更年期障害」です。

男性ホルモンのテストステロンの分泌は、50歳ごろから低下の度合いは強くなりますが、エストロゲンほど急激なものではなく、個人差も大きく、50歳を過ぎても若いときと同じレベルを保っている人もいます。

エストロゲンの分泌低下は、次のような症状を招きます。

加齢とともにエストロゲンが減って骨がもろくなる

・自律神経失調の症状(血管運動神経系症状、血管応答の不全)……顔のほてり(ホットフラッシュ)、のぼせ、めまい、異常発汗など。
・精神神経系の症状……いらつき、不安、抑うつ、倦怠感、睡眠障害など。
・泌尿生殖器系の症状……尿失禁、老人性膣炎など。

さらに、数年たって血中のエストロゲンが枯渇すると生じるのが、次の症状です。
・動脈硬化、脂質異常症、高血圧、脳卒中、心疾患など。
・骨量減少、骨粗鬆症、腰痛、ひざ痛など。

エストロゲンの欠乏によって生じた腰痛やひざ痛などによって、身体活動や運動が十分にできなくなると、すでにふれたとおり筋量が減少し筋力が低下して転倒しやすくなります。そこに骨量の減少、骨粗鬆症が加われば骨折しやすくなり、寝たきりにつながりかねません。閉経後のエストロゲンの欠乏は、直接的ではないにしても、筋量の減少とも無関係ではありません。

更年期障害の治療法としてまず考えられるのが、エストロゲンなどの閉経後女性ホルモン補充療法です。ほとんどの症状に60%以上の高い確率で改善の効果がありますが、長期に投与した場合には乳がんの発症リスクを増加させてしまうというデータもあります。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋