<女は筋肉 男は脂肪/第1章:男女の健康問題を比べてみる(2)>

有訴者率、通院者率の違い

平日の病院の待合室が、高齢者でごった返しているという光景は、今ではけっして珍しいことではなくなりました。

病気やケガなどで自覚症状がある人を「有訴者」、実際に通院している人を「通院者」といいます。有訴者や通院者の人口1000人あたりの割合を示す有訴者率、通院者率はいずれも、年齢が高くなるにしたがって上昇していることが、そうした現実を裏づけています。

年齢別(総数)の有訴者率では、10~19歳は167ですが、60~69歳では353、そして80歳以上では520と、年齢が上がるにつれて男女とも高くなっています。性別では、男性272、女性337と女性のほうが上回っています。

いっぽうの年齢別(総数)の通院者率も、10~19歳は141ですが、80歳以上になると730にまで上昇します。こちらも年齢が上がるにつれて高くなる傾向は男女共通で、性別では男性373、女性407と女性のほうが上回っています(「平成28年国民生活基礎調査の概況」厚生労働省)。

有訴者率や通院者率が示すとおり、ほとんどの人は年齢を重ねるにつれて体力が衰え、虚弱の状態になり、やがてはなんらかの病気にかかる危険性が高まり、そしていつかは必ず最期を迎えるという流れを避けて通ることはできません。

自覚症状を訴えてから病気にかかるまでの中間的な虚弱(衰弱、脆弱)の状態を、医学的には「フレイル(frailty)」といいます。身体的には、①体重の減少、②筋力の低下、③疲労感、④歩行速度の低下、⑤身体活動の低下の5つのうち3つ以上に該当するとフレイルと判定されます。

しかし、フレイルになったからといって、けっして後戻りできない(不可逆性)状態といった印象をもつのは間違いで、しかるべき手立てによって健常な状態に戻れる(可逆性)という意味が含まれています。そうしたシニアを早くに発見して適切な手立てを講じれば、生活機能の維持・向上は図れるものなのです。

かかりやすい病気の違い

では次に、有訴者はどんな症状を訴えているのか、通院者はどんな病気で病院に通っているのかをみてみましょう。

男女別にみた通院者率の比較のグラフ

有訴者では、男性の場合は、腰痛、肩こり、せきやたんが出る、鼻がつまる・鼻汁が出る、体がだるい、頻尿、手足のしびれなどが上位を占めています。女性の場合は、肩こり、腰痛、手足の関節が痛む、体がだるい、頭痛、鼻がつまる・鼻汁が出る、目のかすみ、せきやたんが出る、足のむくみやだるさ、便秘といった自覚症状が多くみられます。

通院者では、男女ともに高血圧症がもっとも多いのですが、男性の場合は、糖尿病、狭心症、心筋梗塞、痛風と続き、女性の場合は、腰痛症、脂質異常症(高コレステロール血症など)、肩こり症、骨粗鬆症、関節症と続きます。

通院者率の調査からは、傷病の発症頻度や発症年齢、つまり、何歳ぐらいからどんな病気にかかりやすいかに、男女差があることが分かります。

たとえば、高血圧症では、男性の場合は、50歳代になると急激に上昇するのに対して、女性の場合は60歳代と少し遅れます。

骨粗鬆症は、40歳代までは男女差は小さく、男性は緩やかに上昇しますが、女性は60歳代になって急激な上昇がみられます。

脂質異常症(高コレステロール血症など)は50歳代までは女性より男性が上回っていますが、60歳代になると女性の率が急上昇して70歳代でも上昇し、男性を大きく上回る結果となっています。

男女ともに、高血圧症や脂質異常症といったいわゆる生活習慣病が上位にランクされていることから、通院者率が急激に上昇する50歳代以前から、ふだんの生活でどのように病気を予防するのかが大きな課題といえます。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋