進学、就職の時期は、本人も家族も生活スタイルが変わり、食生活にも変化のある季節です。1人で食事をする機会が増え、自炊を始める人もいるでしょう。過剰にダイエットを意識したり、栄養バランスを崩す方も出てきたりもします。

血糖値の上昇だけが太る原因?

食事で太る原因の1つに、血糖値の急上昇が挙げられます。血糖値が急に上がると「早く血糖値を下げなくては」と脳が指令を出し、より多くのインスリンを分泌します。その結果、脂肪をため込みやすく、太るという考えからです。

その流れから糖質制限ダイエットが流行し、主食量を減らす人がいますが、糖質制限は元々、糖尿病患者のための食事療法です。私たちが生きていく上で、ご飯、パン、麺類などの主食は重要なエネルギー源であり、主食なしでは食事は成り立たず継続できません。

そこで、ダイエットに向いている主食は何か、太りやすいのはご飯なのかパスタなのか、女性が1回に食べる主食の平均摂取量を元に栄養素などを比較してみました。以下の表では、エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質+食物繊維)、食物繊維に加え、「GL値(※)」を項目に挙げています。

主食の種類を栄養素とGL値で比較

※GL値とは

 GI値(グリセミック・インデックス、glycemic index)は食後血糖値の上昇を示す指標として、1食で摂取した炭水化物の質を評価する数値。目的の食品に含まれる炭水化物量が50gになるまで食べた時の血糖値の上がり具合を、基準食である50gブドウ糖(グルコース)を100とした場合の相対値で数値化したものです。
 同じく食後血糖値の上昇を示す指標であるGL値(グリセミック・ロード、Glycemic Load)は、1食で摂取した炭水化物の質と量とを同時に示す指標です。

GL値=食品に含まれる炭水化物の量(g)×GI値÷100

つまり、GI値が低くても摂取量が多ければ、血糖値はより上昇するため、GL値での比較が必要です。

GL値は白米が最も高いが…

この表だけ見ると、そばやパスタといった麺類はタンパク質を多く含んでいるので、血糖値を上げにくいと考える人がいるかもしれません。GL値はご飯(白米)が最も高いことから「ご飯抜き」をする人がいるとも考えられます。

この白米を玄米に変えると、GL値は29に下がります。これに納豆1パック(40g)を加えるとタンパク質が10.8gまで増え、栄養価の高い食事になってきます。

酢飯やチャーハンにするとGI値が下がります。酢を使用したり、油で米をコーティングした方が糖の吸収が緩やかになるからです。しかし、エネルギーは上がります。糖質制限で減量しようとしてご飯を抜いて麺に変えてみたが、摂取エネルギーは減らず、減量につながらないというケースもよくあります。

パンが主食なら高エネルギーに

外食でサンドイッチセットを注文すれば、パンの量は表の2倍程度になりますし、クロワッサンや生クリームの入る高級食パンならエネルギーが高くなります。パンが主食の場合、ジャムやバターを塗ることも多くなるでしょう。

菓子パンはケーキに近い栄養成分であり、口当たりが軽いため食べ過ぎる傾向もあります。また、パンのおかずにはソーセージやハム、チーズといった脂質の多い洋風のものが合うため、高脂質食になりがちです。

麺類は栄養が偏りやすいマイナス点も

麺類は1品でも食事になりますが、使用する食材が少ないとほぼ主食だけに偏ってしまいます。ご飯物とのセットにすると、炭水化物量だけでなく高カロリー食になってしまいます。

人気のオートミールは、1回30~40gの摂取が推奨されていますが、この量では物足りないと感じる人も多いでしょう。牛乳やヨーグルトを混ぜ、さらにはちみつなどで甘さを加えると、その分のエネルギーが上乗せされます。

要するに、どんな主食も単品で見るのではなく、食べる量、調理方法、おかずとの組み合わせが重要なのです。

極端な糖質制限は体調を崩す原因に

「血糖値の急激な上昇は太る」とマイナス面ばかり捉えられがちですが、「速やかにエネルギーとして使われる」ということは利点でもあります。糖質はインスリンの分泌を促進し、インスリンは糖質の利用だけでなくタンパク質の筋肉への取り込みにも関与しています。運動後にタンパク質と糖質の入った食事や補食を摂ることが推奨されているのも、このような理由からです。

1日に摂取するエネルギーにおいて炭水化物の割合は、どの年代の男女とも50~65%と半分以上としています(食事摂取基準)。糖尿病学会も、糖質制限をするにしても炭水化物エネルギー比は50%の緩やかな糖質制限を推奨しており、半年以内の短期間であっても40%未満になるような急激な制限をすすめていません。炭水化物エネルギー比が50%程度の死亡率が最も低いというアメリカの報告もあります。

つまり、「ダイエットのために主食を抜くことは好ましくない」ということです。自分のライフスタイルに合わせて主食を選び、食べ過ぎないこと。量や栄養素の不足分をおかずで補うことで食事バランスは良くなります。

野菜不足を感じているなら、主食は不溶性食物繊維が豊富な玄米、全粒粉のパンや麺を選ぶことで食物繊維の摂取量は増加します。炊いた玄米を1食分ずつ冷凍保存しておき、食べるときに解凍すれば便利ですね。帰宅時間が遅くなるなら、オートミールに水を注ぎ、電子レンジで温めるだけでおかゆにできます。卵などの具材も一緒に入れれば、栄養価が高まります。

このように、それぞれの主食の特性を生かし、豊かな食生活を送って欲しいものです。色々な食材を試しながら体調を崩すことなく、新生活を楽しみましょう。

管理栄養士・今井久美