ハードなトレーニングと体形維持―。フィギュアスケート選手にとって、そのバランスは永遠の課題だ。

白岩優奈(2020年10月3日)
白岩優奈(2020年10月3日)

15、16年の全日本ジュニア選手権で2位に入った白岩優奈(19=関大)も近年、毎日の習慣である「食」に悩みを抱えていた。発想の転換は2年前の19年。「森永製菓」のサポートを受け始めた。「森永製菓トレーニングラボ」の栄養士と情報を交換して、驚いた。

「『白ごはん、こんなに食べていいんだ!』ってビックリしました。食事が、本当に楽しくなりました」

お気に入りの夕食というアクアパッツァの写真を手に笑顔を見せる白岩優奈(撮影・松本航)
お気に入りの夕食というアクアパッツァの写真を手に笑顔を見せる白岩優奈(撮影・松本航)

白岩が頭角を示したのは15年、中2で迎えたジュニア1年目だった。ジュニアグランプリ(GP)シリーズで2連勝。全日本ジュニア選手権では樋口新葉に次ぐ2位となり、カテゴリー最高峰である世界ジュニア選手権で4位入賞を飾った。持ち前の明るさと勢いは、当時から武器のジャンプにも好影響をもたらせた。

「ジュニアの頃は『まぁいける!』『気合でいこう!』という感じでした」

だが、順風満帆な日々は、長く続かなかった。

シーズン後に左足脛骨(けいこつ)の骨折が判明。翌シーズンも2年連続で全日本ジュニア選手権2位と結果を残したが、今度は腰の疲労骨折に見舞われた。高1となった17年にシニア転向。高3に差し掛かると、体重の増減による影響を強く実感し始めたという。

「少しむくむと足の裏が痛くなって、体が重くてジャンプが跳べない。そうすると『太るから』と食べなくなりました。『痩せたらジャンプが跳べる。タンパク質さえとれば大丈夫』と考えました。朝、昼と炭水化物をとって、夜は抜く。みんなが食べる量の半分にしたら、ふらふらして、貧血になる。練習に支障が出るし、おなかがすくと、イライラしてしまいました」

悪循環に陥っていた時期、栄養指導を受け始めた。提示されたメニューは、大きく分けると3つあった。

(1)体重維持メニュー
(2)減量メニュー
(3)お楽しみメニュー

朝、夜は自宅、昼は弁当が基本という生活サイクル。母だけでなく、時に自分でも調理しながら、栄養のバランスを深く考えた。

白岩優奈がお気に入りという夕食のアクアパッツァとサラダ(本人提供)
白岩優奈がお気に入りという夕食のアクアパッツァとサラダ(本人提供)

オフシーズンの現在はプログラムを滑りきるため、体力維持を目的に、しっかりとエネルギー補給をしている食事という。お気に入りは、ある日の夕食にした「アクアパッツァ」。豆苗、梅、ささみのサラダに加え、白米もきっちりと摂取する。ロールパンサンドの朝食ももぐもぐと食べる。

白岩優奈が朝食に用いたロールパンサンド(本人提供)
白岩優奈が朝食に用いたロールパンサンド(本人提供)

時には自分で「お楽しみメニュー」のラーメンを作る。担当の栄養士からは「毎日はダメだけれど“チートDay”を設けたらいいよ」と言われている。「試合後にあれを食べる」といった具合に楽しみを作る。

成果は如実に表れた。習慣にしている血液検査では「何を変えたの?」と驚かれた。食の改善は骨密度などの数値に表れ、何より自分の心が前向きになった。

「『練習行きたくないな…』『どうせ跳べへんしな…』という気持ちがなくなって『明日も頑張ろう!』に変わりました。得られたのは…『安心』ですかね」

20年春に入学した関大では、栄養学を履修した。

「年下で食事に悩んでいる子もいます。私も悩んでいたし、同じ思いをしました。何か手助けができるように、もっと勉強したいと思うようになりました。食に向き合うことで、より『スケートのために、何が必要か』と考えるようになりました。まだまだ完成じゃない。もっと工夫して、ベストなパフォーマンスができる状態にしたいです」

勢い任せだった少女の思考は徐々に変わり始めた。

「昔は極端に言えば『ジャンプだけ頑張れば…』と思っていました。今は表現するためにダンス、バレエに取り組み、それをピラティスや体幹トレーニングでスケートにつなげています。目標に向けて、考えながら、一生懸命やっていくことが大事だと思います」

7月から始まる来季はシニア5年目。重要な22年北京五輪シーズンだけでなく、中長期的な目標もある。

「長くスケートを続けたいと思っています。やっぱりスケート、好きなので」

屈託のない笑顔が、心身の充実を物語っていた。【松本航】

◆白岩優奈(しらいわ・ゆうな)2001年(平13)11月26日、京都府生まれ。京都両洋高―関大。小学生の頃は給食を5分で完食し「元々はよく食べるし、早食いです」。好物はピスタチオのアイスクリーム。実家の食事は和食が中心。揚げ物は元々ほとんど食べなかった。20年全日本選手権9位で、21年度の日本連盟強化選手B。151センチ。