前回のコラム「今年の夏は水分補給で失敗しない!チェックリストで攻略、振り返る習慣を」では、脱水予防のための水分摂取の量やタイミングを時系列で話しましたが、少しは参考になったでしょうか。練習が毎日の積み重ねのように、食事も水分補給も習慣化されないといけません。今回は、水分補給の「内容」に焦点をあててお話ししていきます。

日常生活の水分は「水」か「お茶」

運動する・しないに関わらず、日常生活(家や学校)で摂取する水分は、基本的に「甘味も辛味(塩辛くない)もないもの=水かお茶」です。テレビなどのメディアが熱中症予防として「水分・塩分を補給しましょう」とアナウンスしますが、最も重要なのは「水分」なので、食事から塩分が摂れていれば、飲料から塩分を摂取する必要はありません。むしろ、飲料から塩分や糖質を摂取すると、知らず知らずのうちに過剰摂取につながります。

そもそもスポーツドリンクは読んで字のごとく、「スポーツする人のための飲料」です。運動時に発汗で失われる水分やミネラル(NaやKなど)の補給と、運動におけるエネルギー消費を補充するための糖質が含まれています。屋外での作業などで「滝のように流れる汗をかいた時など」は、運動時と同様にミネラルの補給が必要になるので、スポーツドリンクの補給が適切だと考えます。

スポーツドリンクは運動時に適した飲料

体内での水分吸収率が一番良いのは、100ml中0.1~0.2%(0.1~0.2g)の塩分(ナトリウム)と40~80mgの糖質(4~8%)を含むものとされており、スポーツドリンクはその範囲で成分が調整されています。つまり、運動時に適した飲料を選ぶ場合は、飲料の成分をきちんと把握することが重要です。

スポーツドリンクを薄めて塩分や糖質の濃度も薄めてしまうと、体内吸収が悪くなります。一方で、塩分や糖質の濃度が高ければ、吸収しやすい濃度まで体内の水で薄めるという作業が発生してしまい、ますます「脱水」が進みます。よく、塩辛いものや甘いものを食べた後にのどが渇くのは、この作業が体内で起こっているからなのです。

牛乳を水分代わりに飲む場合は、タンパク質・脂質の過剰摂取につながりますし、コーヒーや紅茶など利尿作用のあるものは、人によっては「トイレが近くなる」「甘味を加えないと飲めない」などの状況になります。このように飲み物によって、向き・不向きがあるため、個人個人の状況に応じて、飲むものの種類や量を調整することが必要なのです。

必ず成分表で「塩分・糖質」を確認せよ

その商品にどれぐらいの塩分や糖質が入っているのかは、裏などにある成分表示をチェックしましょう。注目すべきはエネルギーではなく、糖質と塩分(食塩相当量、もしくはナトリウム)です。

飲料別の塩分や糖質の含有量(赤字は数値が高いもの)
飲料別の塩分や糖質の含有量(赤字は数値が高いもの)

上記は、主な飲料の塩分や糖質の含有量の例を表にしたものです。果汁の含有量が少ないジュースや炭酸ジュースは、糖質が思ったよりも多く入っています。経口補水液は塩分が多く、水分が足りている通常の状態ならしょっぱくて飲めません。これをおいしいと感じる場合は、脱水が相当進んでいると考えられます。

温度は5~15℃、体を冷やすことも大切

水分補給のための飲み物の温度は「5~15℃(冷蔵庫で冷やす程度)が適温」と言われています。温度がある程度低くないと、体が冷えないからです。冷えたものを飲むことによって胃などの消化器官が冷え、そこを巡る冷たい血液が全身に回って体温を下げるという仕組みになっています。指導者の中には「冷たい飲み物は、のど越しが良くて飲みすぎるからバテる」などと、いまだ間違った認識を持つ人がいますが、そんな声は無視してでも飲まないと自分の命が危ぶまれます。

また、前回紹介した「アイススラリ―」は、氷の粒子が胃で溶けるので、凍らせていないものより胃にとどまる時間が長い上に、スラリ―自体の温度も低いので、体の深部体温を下げる効果があります。常にアイススラリ―などの凍ったものや、キンキンに冷やしたものが必要という訳ではありませんが、温度や湿度、体温など体の状況に応じて飲み物を選ぶ必要があります。

本当に必要?特殊効果をうたったドリンク

いまや様々な飲み物が市販されており、中には「目が覚める」「元気がでる」「気分がすっきりする」などの特殊効果をうたったものも多くあります。そんな飲料にはカフェインが多く含まれていたり、得体の知れない素材が使われたりしているため、飲んで良いものかをきちんと判断する必要が出てきます。

理由は「ドーピング」です。カフェインはドーピング禁止物質ではありませんが、大量に服用して中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。

症状が進めば生命の危機も起こりえることから、農林水産省のHPでも過剰摂取に警鐘を鳴らしています(カフェインの過剰摂取について/農林水産省HPより https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html)。カフェインを多く含むエナジードリンクなどは、本当に飲む必要があるのかを判断することが大切です。

また、ヘンプエキス(大麻の種のエキス)を含む飲み物もあります。ヘンプは漢方で使われることもあるようですが、医療機関では選手に漢方を処方することはドーピングの観点からあまり推奨していませんし、ヘンプにどんな効果や副作用があるのかも不明です。情報をきちんと収集、理解してどんなものを飲めばよいのか、自分で考えることが重要です。

今回、紹介するのは「夏野菜の無水ドライカレー」です。2種のタンパク源(豚ひき肉と蒸し大豆)とタマネギ、ニンジン、セロリ、ピーマンなど多くの野菜を使い、野菜から出る水分だけでドライカレー風に仕上げました。

市販のカレー粉は、ターメリック、コリアンダー、クミン、チリペッパーなど様々なスパイスが混ざっており、使いやすくできています。これらのスパイスは「抗炎症作用」や「消化を助ける」など多くの効果を持つようです。

特に食欲が落ちて、食べる量が減ったり、偏ったりするこの時期には、一皿で「主食+主菜+副菜」を摂ることができるカレーが食べやすく、食欲も刺激されます。ご飯にレーズンやアーモンドを混ぜたり、ルウをスープカップに入れたりして、カフェ風のオシャレな1品に仕上げてみてはいかがでしょうか。

女子アスリート/管理栄養士・佐藤郁子