<「生理をタブー視しないで」女性オリンピアンの主張(1)>

女性アスリートにとって避けては通れない「生理」に言及する選手が増えている。陸上女子1万メートル日本記録保持者で、東京オリンピック(五輪)代表の新谷仁美(32=積水化学)は、無月経になるほどの減量をして1度現役を引退した経験から、生理の大切さを主張する。

レースを前に意気込みを語る積水化学の新谷仁美(2020年11月21日撮影)

安直な考えで極限まで減量

1年前、新谷がツイッターで発信した生理に関する投稿が話題になった。13年にかかとの痛みを軽減すべく、ただただ減量をした結果、1度生理が止まったことを告白し、「当時の私は病的な程のガリガリ体形でした。(中略)あまりにも浅はかで、未熟な考えでした」と、過去の選択への反省をつづったのだ。新谷は「アスリート関係なく、生理は人間として生きるために必要なこと」とした上で、“男女関係なく生理の悩みと向き合うことの大切さ”を主張する。

25歳だった14年1月、新谷は1度現役を引退した。減量して臨んだ前年の世界選手権モスクワ大会で、女子1万メートル5位入賞を果たしたが、ガリガリの自分を見て「アスリートとしても人としても、ちょっと見られないと思った。あそこまでする必要はなかったんじゃないか」と思ったからだった。減量時は「ひとつの選択肢しか見えておらず、知識を付けようという考えは一切なかった」。体重を極限まで減らす=かかとの痛みをなくす、という安直な考えだった。

13年8月、世界陸上モスクワ大会・女子1万メートル決勝で終盤まで先頭に立つ果敢なレースで5位に入った新谷仁美

体だけでなく、心も廃れた。月経のある女性の体では、骨を丈夫にする効果のある女性ホルモン「エストロゲン」が分泌される。定期的に生理が来ていた新谷にとっては「生理がないとケガが治りにくいのでは?」と、“無月経”という事実も不安につながった。

一方で、生理があることでのマイナス面も無視はできない。「私は30歳から生理痛が激しくなり、薬を飲まないと痛みが落ち着かないときがあった。生理はメンタルの波への影響も激しい。自分で片付けられない人もいるので、男女関係なく手を差し伸べてほしい。当事者も恥ずかしがらずにSOSを求めるべき」。本人の発信と周囲の理解が大切だと主張する。

今もなお苦しむ選手たち、生きることを大事に

学生時代から、生理に悩む仲間は多かった。「生理があることでアスリートとして否定されている選手を多く見てきた。昔ほど全員が否定的ではないけど、今も生理に関して苦しんでいる選手が多いのが現実」。当事者としてその悩みを経験したことで、“タブー視”されることのあるテーマでも、発信しようと思えた。「女性特有のものを公言すると、日本ではあまり受け入れてもらえない。生理はあって普通のこと。除外したり、二の次にしないでほしい」と呼びかける。

苦い経験を経て現役復帰した今は、食を重視している。20年春からは、明治の管理栄養士、村野あずさ氏のサポートを受け、健康的な体作りに取り組んでいる。そして「競技が終わっても、その先に人生が続く」との考えに至った。

「生理に否定的な指導者」の呪縛から逃れられない場合は? その問いには「若い子たちには『陸上競技が全てじゃない』『もう競技を辞めなさい』と言っている。夢をぶち壊す形になるが、生きる上で陸上はほんの一部。自分が生きることを大事にしてほしい」。思いきった発言だが、周囲の理解やサポートのもと、若い選手が競技に向き合えるように、と願いが込められている。【杉山理紗】

◆新谷仁美(にいや・ひとみ)1988年(昭63)2月26日、岡山県総社市生まれ。興譲館高を卒業後、豊田自動織機へ。14年に1度引退した後は、OL生活を経て、18年に現役復帰。20年にはハーフマラソンで1時間6分38秒、1万メートルで30分20秒44の日本新記録、5000メートルで日本歴代2位の14分55秒83をマークした。166センチ、44キロ。

(2021年1月28日、ニッカンスポーツ・コム掲載)