前回のコラムでは牛乳が身体に悪いと言う人と、牛乳を飲んでこれまで大きなケガなくプロとして活躍する選手のお話をしました。

 私も選手をサポートする中で、野菜嫌いの選手から「でも代表の○○選手は全く野菜を食べないって言ってたよ」と言われたり、魚嫌いで肉ばかり食べている選手の方がレギュラーになっているなどの話を聞いたりします。

 残念ながら、食事だけではスポーツは強くなれないのです。

 スポーツ栄養に関心を持つ人がここ最近、ますます増えてきていることはうれしいことですが、食事だけを重要視しすぎている、力を入れすぎている人がいるような気がします。

勝負するのは選手、周りはサポート

 「この時期は何を食べれば良いですか?」「この組み合わせは?」と食を意識し、実践することは、強くなるためには欠かせない要素です。しかし、食べることだけでは強くなれません。強くなるためには、食事だけでなく日々のトレーニングが大事です。

 トレーニングの内容や強度、頻度はもちろんのこと、それを行うことでのメンタル強化など、毎日の積み重ねで養われていくものがあります。また、選手を取り巻く人や練習場などの環境面、そういったありとあらゆることが、強くなるための要素なのです。

 「この食事をしたから強くなれる」という積み重ねは自信になります。食事をしたから強くなれるのではなく、強くなるために食べるのです。

 これは、一生懸命な保護者ほど陥りやすい間違いです。ある指導者が保護者に対して、「選手はブランドのバックじゃない」と言ったそうですが、選手のためと思っている食事作りが、いつの間にか目的が変わってしまっていることはないでしょうか。 

 私もよく選手に言いますが、勝負するのは選手自身です。周りがいくら頑張ったところで、踏み込めないところがあるのです。

「食」から選手として心身の成長へ

 「うちは、スナック菓子は別に禁止ではなかった。その代わり、食事は残さずに全部食べるっていう決まりがあったから、このお菓子を全部食べたらダメだなとか、夕食間近では食べなかった…」と話していた選手がいましたが、ここにヒントがあるように思います。身体に良いものを食べる、ということだけでなく、この「食べる」ということを大きなくくりとして、選手が自分で考える力を養う。これこそが、一流の選手にとって必要な力だと私は思っています。この考える力は、選手自身の成長につながります。

 食は人を良くする、育てるといいますが、まさにその通りだと思います。

ミルフィーユ梅しそかつ
ミルフィーユ梅しそかつ

 疲労をとる、筋肉量を多くするなど、それぞれ目的があって食事をすると思いますが、すべては強くなるためです。筋肉量を多くしたから強くなるとは限らないし、逆に余計な筋肉をつけたことで動けなくなることもあります。「なぜ筋肉が必要なのか」「どのくらい必要なのか」という疑問が生まれることは、スポーツがうまくなるために必要なことです。

 冒頭でお話した野菜嫌いの選手は、ドクターに相談し、ビタミン剤などで不足分を補っていました。本来であれば、しっかり食事をしてほしいところですが、人づてにきいた話では、食べるためにいろいろ頑張ったけれど無理で、そこにパワーを使うのをやめたそうです。逆に、試合を戦うかのように嫌いなものを克服し、食べようと努力する選手もいます。

 選手自身の価値観でその取り組みは変わりますが、私が思うに、年齢が若い選手の場合は考える力を養いながら、頑張って食べる時期は必要です。

 さて今回紹介するのは「ミルフィーユ梅しそカツ」。選手も大好きなカツを、さらに疲労回復させるためにアレンジしてみました。身体に良いものをおいしく食べる。それによって、選手の心も育てられるのだと思います。