新潟大学はこのほど、新潟県阿賀野市と同市の中学生を対象とした共同研究において、大人の生活習慣病傾向に相当する「心血管代謝異常リスク」が、肥満の中学生では2.9倍にまで上昇することが明らかになったと発表した。また、肥満に至らない軽度過体重でも、女子においては標準体重の中学生と比べ、血圧高値である可能性が有意に高かったという。

同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科の曽根博仁教授、同・研究科健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座(阿賀野市寄附講座)の藤原和哉特任准教授、そして阿賀野市の共同研究チームによるもの。詳細は1月、栄養学の国際専門誌「Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition」に掲載された。

青少年期の代謝異常(血圧、血中脂質、血糖などの高値)は、成人まで持続することが多く、将来の動脈硬化を促進させることから、早期発見と生活習慣改善による是正が望ましいという。しかしこの世代は、血液検査や血圧測定を含む健康診断を受ける機会に乏しいため、未発見のまま放置されているのが現状だ。

さらに日本人を含む東アジア人の成人では、ほかの人種より低い肥満度(BMI≧23kg/m2)でも2型糖尿病や循環器疾患を発症しやすいことが知られている。青少年においては、肥満に至らない程度も含む体重増加と代謝異常との関連を調べた研究は少なく、その関連は十分解明されていなかった。

こうした背景のもと、新潟大医学部と阿賀野市が、市民の健康寿命延伸を目的とした共同研究プロジェクトの一環として中学生の生活習慣病予防事業を実施。中学2年生に対し、血液検査や血圧測定を含む健康診断や生活習慣実態調査が実施されてきた。

今回は、阿賀野市の中学生生活習慣病予防健康事業において健診を受け、研究に同意した13・14歳の2241名(男子1180名、女子1061名)を対象に、体格指標と代謝指標との関連の検討が行われた。

体格分類は、まず対象者の身長・体重からBMIを算出し、国際肥満タスクフォースが提唱する性別・月齢別カットオフ値を用いて、痩せ・標準体重・軽度過体重・過体重・肥満の5カテゴリとされた。心血管代謝異常リスクは、血圧・非HDLコレステロール(non-HDL-C:動脈効果促進星の血中脂質成分)、HbA1c(ヘモグロビンA1c:糖尿病の指標に用いられる平均血糖レベル)の3つの指標を合成して作成したスコアが、全対象者の中で1SD(標準偏差)以上のものと定義された。

体格分類の結果と健康診断の結果との関連をロジスティック回帰分析で検討したところ、標準体重の中学生に比べ、過体重に該当する中学生で約2.4倍、肥満に該当する中学生で2.9倍心血管代謝異常リスクを持つ可能性が高いことが判明。さらに個々の代謝指標と体格分類との関連を検討したところ、軽度過体重以上の中学生では、標準体重の中学生と比べ、血圧高値である可能性が統計的に有意となる約1.4~2.4倍高くなっていた。

また、動脈硬化促進性の血中脂質であるnon-HDL-Cについても同様の検討が行われ、標準体重の中学生と比べ過体重の中学生で1.6倍、肥満者で3.1倍多くnon-HDL-C高値である可能性が高くなっていた。一方、糖代謝を反映するHbA1cは、いずれの体格とも統計的に有意な関連はみられなかった。

さらに男子と女子に分けても検討され、女子では標準体重の中学生に比べて、軽度過体重の中学生で血圧高値である可能性が約1.6倍有意に高く、さらに過体重で1.9倍、肥満で2.7倍と、体格指数が増加するごとにオッズ比も増加することが確認された。また男子では、やせている中学生は標準体重の中学生に比べて、心血管代謝異常リスクの可能性が約80%低下していることが分かったが、女子ではやせていることと心血管代謝異常リスクに関連は見られなかった。

今回の研究結果から、過体重や肥満の中学生では、標準体重の中学生に比べ、高心血管代謝異常リスクに該当する可能性が2倍以上になることが分かった。さらに女子では、肥満に達しない軽度の体重増加であっても、標準体重の中学生と比べて血圧高値の可能性が高まることも確かめられた。

以上のことから、過体重や肥満に該当する中学生は心血管代謝異常リスクが高いことから、教育現場においても、体重増加につながる生活習慣(過食、運動不足など)是正のための指導を行っていく必要があるとしている。