米麹には2つの生きたカビが生息

そもそも麹とは、穀物にカビを生やしたもの。香りや味の形成、原材料の消化分解、酵母や乳酸菌などの有用微生物よって発酵を助ける物質を供給することを目的としています。米麹を例に見てみましょう。

米麹には、2つの生きたカビが生息しています。

麹菌=菌糸と呼ばれる管状の細胞の先端を伸ばして生育する糸状菌(しじょうきん)

【学術名】アスペルギルス オリゼー(Aspergillus oryzae)
【役割】酵素分解=米のでんぷんをブドウ糖などの糖分に分解→米麹由来の甘酒作りの過程で活躍

市販の米麹が白っぽく糸状に見えるのは、この菌糸のためで、こうじを「糀」と書くことがあるのは、米に麹の胞子が花咲くというイメージからです。

麹菌が生成する「酵素」の働きによって米などの原料が分解され、でんぷんやタンパク質となり、さらに糖、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどが作られます。酵素の分解生成によって香りや味も作り出され、発酵食品の醸造工程に利用もされています。焼きイモや長時間発酵のパンが甘いのも、この麹による糖化が起こっているからです。

※参考:気のせいじゃなかった!石焼き芋が甘い理由/キッチンは実験室(19)

酵母菌=出芽して増える単細胞生物

【学術名】サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces. cerevisiae)
【役割】アルコール発酵=菌の酵素で分解された糖分を吸収し、これをエネルギー源としてアルコールやお酒の香り・味の成分を作り出す→米麹甘酒から日本酒(酒粕)作る過程で活躍

イースト菌が発酵してパンが出来る時にほんのりお酒の香りがするのは、アルコール発酵の原理から。発酵が進むとアルコール分が増えていき、最終的にお酒になります。

※参考:パンが膨らむ理由を探せ!グルテンガムと発酵の原理/キッチンは実験室(4)

米麹甘酒が「飲む点滴」と呼ばれる理由

さて、米麹由来の甘酒が「飲む点滴」と呼ばれているのをご存知でしょうか? 麹菌は生きるためにでんぷんやタンパク質分解酵素などの様々な酵素を生産し、さらにでんぷんを麦芽糖に分解し、体に吸収しやすい形にしてくれます。

それだけではありません。麹菌は、増殖に必要なアミノ酸やビタミンを自前で合成する能力があるため、代謝を促進するビタミンB群はお米の3~4倍、葉酸は14倍も増加します。このため、消化吸収にも優れている甘酒は体への負担が少なく、栄養素を摂取できる飲み物として「飲む点滴」と呼ばれ、熱中症や夏バテ予防として江戸時代から飲まれていたのです。

黒、黄、白、紅…いろんな麹の色がある

麹は色によって分類され、黒麹、黄麹、白麹、紅麹と主に4種類あります。基本的にはカビが作る胞子の色で、見た目の色で分けられ、酒造りの際も使い分けされています。

黄麹は日本酒の醸造に使われます。黒麹は沖縄から伝わったとされ、雑菌の繁殖を防ぐクエン酸が強く、パンチの効いたコクとキレがあるので泡盛、焼酎の製造に使われます。九州で使われる白麹は酵素力に優れ、黒麹よりマイルドな味わいで、焼酎作りに。紅麹は、桜餅などの着色料にも使われる赤い色。中国では紹興酒の醸造に使われ、血の巡りをよくする漢方薬に用いられたと古典医学書にも記載されていました。

次のページ米麹甘酒や酒まんじゅうを作ってみよう