<キッチンは実験室(5・下):ホウレン草の緑色の秘密>

 ここでクイズです。ホウレン草を鮮やかな緑色(クロロフィリン)にするために、重曹を入れる以外にゆでる方法はあるでしょうか。

参考:ホウレン草の緑色の秘密を探れ!ミネラルとの不思議な関係/キッチンは実験室(5・上)

 高校化学の内容になりますが、マグネシウムは二価の陽イオン(アルカリ土類金属)。食塩や銅、鉄は同じアルカリの陽イオンのため、マグネシウムの代わりに置き換わってクロロフィリンの構造を保持します(鉄クロロフィリン、銅クロロフィリンなど呼ばれています)。和食の調理法で、鉄釘を入れたり銅鍋でゆでる方法がありますが、科学的に理にかなっているのです。

 なお、ホウレン草を入れるときに塩を入れる人もいると思いますが、緑色(クロロフィリン)を安定させるためには、塩を1つまみではなく、3~4%(1リットルの水に30~40g)入れなければ効果がない、という報告もあるので参考にしてみてください。

緑色は光合成に必要な色

 さて、複雑な化学の話はこれくらいにして、まとめに入ります。

 ホウレン草の緑色の色素、クロロフィルが鮮やかな緑色を保っていられるのは、中に抱えている(配位結合している)マグネシウムのおかげです。このマグネシウムはミネラルの1つ。ミネラルとは、鉱物の中でも生命維持に必要なものの総称です。

代謝

 私たちは食べ物を食べた後、消化吸収を経て、身体を動かすエネルギーや、身体を作る材料に変えていきます。この過程を代謝と呼びますが、ミネラルやビタミンはその代謝のお手伝いをしてくれます。

 また、緑色は光合成に必要な色で、クロロフィルは光エネルギーを効率良く吸収し、化学エネルギーへと変換する「光アンテナ」としての役割をもっています。地上に顔を出しているネギが緑色なのも、キャベツの外側が黄緑色で中の芯が白い理由も同じです。

サグカレー1

 ちなみに、野菜の色は4つに分かれます。緑色のクロロフィル系、オレンジ色のカロチノイド系、紫のアントシアニン系(紫芋のリンク)、黄色のフラボノイド系。それぞれの色に栄養のサインが入っているのですね。

 最後に、ホウレン草を使った緑色のカレー「サグカレー」の作り方を紹介します。家庭で色の話をしながら、作ってみるといいですね。

<サグカレーの作り方>
材料
・タマネギ…1玉
・ニンニク…2かけ
・ショウガ…半分
・鷹の爪…2かけ
・ジャガイモ…2玉
・クミンシード…大さじ1
・ホウレン草…1束
・コンソメキューブ…2かけ
・塩…小さじ2
・バター(オリーブ油)…15g
・コリアンダー…小さじ2(お好みで)

サグカレー1

作り方
①タマネギ、ニンニク、ショウガをみじん切りにし、クミンと鷹の爪を鍋に入れてバターでじっくり炒める。
②沸騰したお湯にホウレン草を入れて2分ゆで、水にさらす。ホウレン草をペーストにする
③ジャガイモをゆでておき(電子レンジOK)、ひと口大に切る。
④ジャガイモとホウレン草ペースト、コンソメを①に入れて軽く煮て、塩で味を調えて出来上がり!

サグカレー

 前回紹介したパン(参考:「夏休みにトライしよう、五感を使った手作りパン」)の生地を使ってナンをつくってみてもいいですね。

高校生との食育ワークショップで。左が金子さん

○…先日、群馬県のぐんま国際アカデミー高等部との合同企画で、このサグカレー作りの食育ワークショップを行ったところ、「ホウレン草の色に栄養があるなんてびっくりした」「色が変わるなんて面白かった。おいしかった」という反応がありました。ホウレン草をゆでるだけの簡単な実験ですが、内容は高校化学レベルです。pH、ミネラル、光合成と自然の恵み…とすべてがいろいろなことにつながっています。少しでも野菜のことが好きになってくれたらしいなぁと思います(みせす)。

高校生と企画した食育ワークショップ

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター