<大相撲夏場所>◇初日◇12日◇両国国技館

令和最初の本場所で、新大関貴景勝(22=千賀ノ浦)が白星発進だ。東前頭2枚目遠藤を寄せ付けず、力強く押し出した。

取組直前に鼻血を出すアクシデントに見舞われ、土俵上でも止まらなかったが、こらえてみせた。「母の日」を白星で飾り、06年夏場所の白鵬以来13年ぶりの新大関Vへ好スタート。名実ともに令和の相撲界を担う22歳が、ファンの期待に応えてみせる。

立ち合い後に鋭い突き押しで遠藤(右)の体勢を浮かせる貴景勝(撮影・小沢裕)
立ち合い後に鋭い突き押しで遠藤(右)の体勢を浮かせる貴景勝(撮影・小沢裕)

アドレナリンを解放した副作用なのか。貴景勝が土俵へ向かう花道ではなをかむと、右鼻から血が流れた。土俵下へ移動しても止まらない。勝ち名乗りを受けるまで、はなをすすり続けた。「(鼻血の)理由は分からない。こんなことは初めて。いつもと違った(雰囲気)かもしれない」。新大関場所の初日。「出るとしたら今日とか危ないな」と“弱い自分”が出ることを警戒した。「精神的にヘタレみたいな、変な迷いはなくしていこうと思っていた」。雑念を無くし、集中力を最大限高めた。

自慢の突き、押しで最高の滑り出しを見せた。場所前は幅広い取り口を試したが、本来の押し相撲を展開した。前ミツ狙いの遠藤を鋭い出足で封じると、3発目の衝撃で相手の腰を浮かせ、抵抗もさせず押し出した。取組後の支度部屋で 「感覚的には悪くはないと思う」とサラリと振り返った。「1日1回、15の壁を壊していく。一気に5枚は割れない。その日与えられた相撲を精いっぱいやりたい」と言ってのけた。

懸賞金の束を手に、土俵から引き揚げる貴景勝(撮影・河田真司)
懸賞金の束を手に、土俵から引き揚げる貴景勝(撮影・河田真司)

母の日に白星を贈った。「プロだから」と、日ごとで相撲に取り組む姿勢は変えないが、両親への敬意は常にはらっている。幼少期から空手、相撲を熱心に指導した父一哉さんと、食事など身の回りをサポートしてくれた母純子さん。以前「結婚するなら(母のように)前に出ないタイプがいいな」と漏らしたこともあった。14年にプロ入り後、母の日にプレゼントしたことはないが、「勝つに越したことはない」と勝利を捧げた。

大関昇進にあたり今場所から発売された「貴景勝弁当」は、開店から30分足らずで140個が完売した。ひときわ大きい声援も響き渡る。「ありがたいし、力になる」。ファンの期待を背に、13年ぶりの新大関Vへ踏み出した。【佐藤礼征】

(2019年5月12日、ニッカンスポーツ・コム掲載)