<アスリートの摂食障害(3)>

 高校女子長距離界のレベルは、この20年ほどで飛躍的に向上している。3000メートルの高校ランキングを見ると、1994年度の1位が9分5秒70だったのに対し、2017年は8分54秒27で実業団選手レベルにまで上がり、100位台でも15秒ほど短縮した。

 一方で、日本女子長距離界の国際大会での苦戦は続いている。かつて「お家芸」とされたマラソンも、五輪では、2004年アテネ大会で金メダルを獲得した野口みずきさん以来、入賞者が出ていない。シドニー五輪金メダリストの高橋尚子さんを大学時代に指導した大阪学院大の山内武教授(日本トレーニング指導者協会監事、ランニング学会副会長)は、その一因に10代からの「軽量化戦略」があると見ている。「女子マラソンの低迷は、努力不足ではない。高校時代から始まる構造的な問題です」と、6月の日本摂食障害協会主催「世界摂食障害アクションディ2018」における講演で明らかにした。

アテネ五輪女子マラソンで優勝した野口みずきさん以降、日本人の五輪入賞者はいない

「軽量化戦略」で無月経、疲労骨折

 前回のコラム「10代女子ランナーの軽量化戦略に潜む摂食障害」で、長距離選手のパフォーマンスを決める要素の1つに最大酸素摂取量があり、激しいトレーニングと厳しい体重管理をしながら、体脂肪の少ない体を作り上げる中高生女子アスリートが増えていると伝えた。

 しかし、これは大きな問題点をはらんでいる。スポーツをやる、やらないに関わらず、女性の骨密度は20歳までにピークに達し、それ以降は緩やかに低下していく。強い骨を作るには中学、高校時代に運動量に見合った食事、必要な栄養素を摂り、骨の貯金をしなければならない。

 それに反して軽量化戦略に取り組むと、その過程で運動性無月経(過度のトレーニングなどを原因に月経が止まること)を発症。これが長期化すると骨の再生に関係しているエストロゲン(※)が低下して骨がもろくなり、疲労骨折を繰り返すことになる。「実際に疲労骨折と診断された選手はかなりの人数が報告されている」と山内教授は話す。

「一生のことを考えて、今何をすべきなのか、選ぶことが重要」と講演する山内教授

 「軽量化戦略を続けてきた選手は、骨がボロボロ。25歳頃に引退するケースが非常に多い」と山内教授が明かすように、パフォーマンスアップどころか、練習したくてもまともにトレーニングができず、早期引退に追い込まれる。さらに、心身ともに過度のストレスを受けたことで摂食障害、もしくは予備軍になっていることもある。

20歳までは「貯骨」に励むべき

 世界のトップレベルに達するには、本格的なトレーニングを始めてから10年程度かかるという。20代半ばで世界レベルのランナーとなり、28歳で五輪金メダリストとなった高橋さんは、高校時代は800メートルが専門で過度の減量をせず、「大学時代も体脂肪は12.5~14.5%程度で、ランナーとしてはぽっちゃりした体型だった」(山内教授)。大舞台で力を発揮でき、選手生命を長く続けられたのは、成長期での「貯骨」があったからだ。

 成長期にすべきことは、その先で輝くため、世界で戦うための体作りだ。「20歳までは軽量化戦略をとらず『貯骨』が優先。それ以降に骨密度が上がることはないことを知ることが、まずは大切」と山内教授は呼び掛けた。

シドニー五輪女子マラソンで優勝した高橋尚子さんは10代でしっかり体作りができていた

 10代女子選手に大きなリスクを伴う軽量化戦略。しかし、「競争がある限り、なくならない」とも山内教授は指摘し、20歳以下の女子選手に過度な減量を強いないなどの「現場の指導におけるガイドライン」を設けることを提案した。同時に、選手やその保護者に対しては「一生のことを考えて、今何をすべきなのか、選ぶことが重要」と力を込めた。再び日本からマラソンの五輪女王が生まれるには、成長期での体作りがカギのようだ。

【取材:青木美帆、アスレシピ編集部・飯田みさ代】

(注)エストロゲン

 エストロゲンは、丈夫な骨を維持するのに必要な女性ホルモンで、卵巣から分泌される。慶大医学部名誉教授の吉村泰典氏によると、体脂肪率が15%を下回ると卵巣機能障害が増加し、一流ランナーの基準とされる10%以下になると、機能自体が停止するという。卵巣を含む性機能が未熟な中高生時代から「軽量化戦略」に取り組み、長期の減量で低エストロゲン状態になると、その骨密度は同年代の女性とは比べ物にならないほど低くなる。そのような状態で強度の高いトレーニングを行えば、疲労骨折になるのは明らかだ。

出典:女性のからだと卵子の老化(http://www.kenko-kenbi.or.jp/uploads/20150304_yoshimura.pdf