昨夏、甲子園に出場し3回戦に進出した二松学舎大付高(東京)は、選手の自主性と向き合いながら、食育に取り組んでいる。集大成となる夏の大会はもう目の前だ(東東京大会初戦は17日3回戦)。

言葉で伝え意識改革

 午後7時30分。練習を終えた選手たちが寮の食堂に集まってきた。全員そろっての「いただきます」の声とともに夕食が始まる。今日の練習、学校の話…と、各テーブル、にぎやかに笑顔で楽しい食事風景が広がった。次々と先を争うように席を立ちおかわりする選手たち。楽しく食事を取っている姿が印象的だ。

夕食だけで、5升炊きの業務用炊飯器7つが空っぽに
夕食だけで、5升炊きの業務用炊飯器7つが空っぽに

 そこには、選手の自主性に任せた体作りがあった。市原勝人監督(53)も「本人の意識が変わらないと、どんな方法もダメだと思うのです。逆に言えば、体を作ることの大切さ、意識さえ芽生えれば成果は上がると思います」と話す。

 嫌な思いをして食べる必要はない。食事はおいしいもの、楽しいもの。それが理解できて、初めて血となり肉となる。「練習も同じ。やらされる練習、野球ではうまくならないでしょう」。市原監督がそう考える根本には、22年にわたる指導にある。夜遅くまで徹底的に練習をしたこともあれば、同じ東京で切磋琢磨(せっさたくま)する日大三や帝京の選手たちの豪快なスイングを見て、「うちも体を大きくしなくては」と、嫌でも食べさせていたこともある。

エースの海老原(左)と平間主将(右)。皆、食事を楽しんでいる
エースの海老原(左)と平間主将(右)。皆、食事を楽しんでいる

 「でもね、練習を長くやると睡眠時間が足りなくなる。さらに無理に食べさせて体調を崩す。果たしてそれでいいのだろうか、と気がついたんです」。何事も腹八分というもので、練習も「もっとやりたい」という意欲が自主性につながるのではないか。食事も同じ。その必要性を理解できれば意欲につながる。日々のミーティングでは言葉を通して体作り、食事の大切さを説いていった。

吉田直人コーチ(26)がご飯の量をチェック。「選手の意欲を評価するために記録を取っているんです」
吉田直人コーチ(26)がご飯の量をチェック。「選手の意欲を評価するために記録を取っているんです」

 「野球も食事も、本当の意味を理解するには2年かかります。3年生になると選手主体になれる。これが理想です」。その集大成、夏の大会は監督との距離感を保ちながら、仲間として楽しく試合をする。それが勝利に結びつけば喜びと充実感は倍に膨らむ。

先輩手本に、楽しくどんぶり3杯

 そして、もう1つ。選手たちの自主性を促すいいお手本がいる。昨年のエース市川睦投手(現日大)の成功例だ。昨年春の大会で、日大三に1―16と5回コールドで大敗。市川は3回途中6失点で降板した。その悔しさが市川を変えた。夜はどんぶり4杯。授業の合間にはおにぎりを食べ、夏の大会までの3カ月で8キロ増。球速は6キロ、制球力もアップし、東東京大会を制し甲子園出場を果たした。

この日のメニュー。写真左上から、煮物、チキン南蛮、ジャガイモと桜エビの和風炒め、カニサラダ、みそ汁、ご飯
この日のメニュー。写真左上から、煮物、チキン南蛮、ジャガイモと桜エビの和風炒め、カニサラダ、みそ汁、ご飯

 今夏、エース番号を背負う海老原凪(2年)も毎朝、おにぎりを3個握り学校へ持参。休み時間ごとに食べ空腹の時間がないように取り組んでいる。「自分たちも市川さんのようになりたい、と意識が高くなり食べるペースが上がりました」と話す平間陸斗主将(3年)も入学以来11キロ増、長打の数が増え、主軸を任されるまでに成長した。

海老原凪(2年)も毎朝、自らおにぎりを握る
海老原凪(2年)も毎朝、自らおにぎりを握る

 食事の大切さを理解している選手たちは、どんぶり3杯のノルマも楽しそうに摂っていた。食べて、しっかり休んで練習。そして自主性をスパイスに加え、心身ともに大きく成長した二松学舎大付ナイン。2年連続の甲子園へ向け、17日に初戦を迎える。【保坂淑子】

今どきの若者のやる気を引き出す市原監督

 市原監督のミーティングは話題が豊富。OBの鈴木誠也選手(広島・23)の在学中の話に始まり、プロ野球選手にメジャーの選手。時にはモデルの話まで飛び出し、選手たちの意欲をかきたてる。きっかけは、7年前。夏の大会を控え、気分転換を兼ね選手たちを東京ディズニーランドに連れていった。「選手たちの私服姿を見て、この子たちも今どきの子。流行の細身の服が着たい、おしゃれをしたい。その気持ちがよくわかった」と振り返る。

 以来、選手たちの気持ちをくみながら、それよりも一生に1度しか手に入らない大事なもの(甲子園)を手に入れにいくんだ、と伝えるようになった。「アメリカ人を見てみろ。体が大きくてもデニムをパンパンにはいてかっこいいじゃないか!」「今はどの職業も、世界に出ていく時代だ。スレンダーな体は通用しないぞ」。

 自分たちの美的感覚に世界を視野に入れ、大きく捉えるのだという。体を大きくして鍛えるのは、カッコいい! そこには、今どきの若者のやる気を引き出す市原監督の指導があった。

◆二松学舎大付 1948年(昭23)創立の私立校。野球部は58年創部。主なOBは元ロッテ初芝清(現社会人野球セガサミー監督)、広島鈴木誠也、巨人大江竜聖ら。甲子園出場は春5度、夏2度。所在地は千代田区九段南2の1の32。本城学校長。

(2018年7月12日付日刊スポーツ紙面掲載)