センバツ高校野球が23日、甲子園球場で開幕。昨秋の関東大会王者で初出場の中央学院(千葉)は25日、初戦(2回戦)で明徳義塾(高知)と対戦する。11月の明治神宮大会初戦で敗れた雪辱を晴らすべく、最終調整を行っている。

センバツ抽選会で対戦が決まり握手を交わす中央学院・池田主将(左)と明徳義塾・庄野主将(2018年3月16日)
センバツ抽選会で対戦が決まり握手を交わす中央学院・池田主将(左)と明徳義塾・庄野主将(2018年3月16日)

 創部47年目、相馬幸樹監督(38)が就任10年目でつかんだ念願の大舞台。相馬監督は技術面もさながら、体作りに重きを置いて選手を育ててきた。最もこだわってきたのが「食事」だ。

1カ月約85食「みんなで強く」

 3年前、自宅通学者を含む部員全員で毎日、学食で3食とるスタイルを導入した。練習が休みの月曜日の夕飯以外、選手49人(寮生30人)で朝、昼、夕、1カ月を30日とすると約85食、一緒にとる計算だ。

和やかな雰囲気で食事をする中央学院の部員たち
和やかな雰囲気で食事をする中央学院の部員たち

 池田翔主将(2年)が「同じ釜の飯を食っているので会話も弾むし、みんなで強くなれる」と結束力が強まったと言えば、エースで4番の大谷拓海投手(2年)も「みんなで食べるのでチームとしてのまとまりが出る」と笑顔を見せた。

食事中、笑みを見せる部員たち
食事中、笑みを見せる部員たち

 それまでは寮生だけが学食を利用。しかし、自宅生が下校途中、コンビニで買い食いしたり、昼食に冷えたご飯を山盛り食べる姿を目にしたりしたことで、「店に行けばお金を使うし、冷えたご飯はおいしくない」と相馬監督が動いた。「高校時代は骨が形成され、体作りに大事な時期。練習後すぐのゴールデンタイムにしっかり食べさせたい」との狙い通り、圧倒的にケガが減ったという。

この日の夕飯は中華丼。ご飯は800グラムで器はラーメン丼ほどの大きさ。あんが足りない選手はおかわり自由
この日の夕飯は中華丼。ご飯は800グラムで器はラーメン丼ほどの大きさ。あんが足りない選手はおかわり自由

1日約3キロのご飯

 献立やメニューは学食を運営する「花悠房」の塚本良典社長(53)が決め、管理栄養士・田澤梓さん(38)のチェックを経て提供している。シーズン中はエネルギー源となる炭水化物(米)、オフ期は筋力アップのタンパク質を重視。選手たちはノルマを決め、体脂肪を落とさなければならない選手以外は、朝=500グラム、昼=700グラム、夜=800グラムのご飯を食べている。

笑みを見せながら食事をする大谷投手
笑みを見せながら食事をする大谷投手

 さらに補食として、寮生は近くの焼肉店で焼肉と約1・2~1・5キロのご飯、自宅生は自分で必要なものを補給する。プロテインなどのサプリメントを摂る選手はほとんどいない。水分補給もほとんどが水。池田主将は入学時の66キロから74キロに増量。大谷投手はこの冬だけで7キロ増の77キロになり、球速が増した。センバツでは「150キロを出したい」と意欲的だ。

雨の中、甲子園球場で投球練習を行った大谷(2018年3月19日)
雨の中、甲子園球場で投球練習を行った大谷(2018年3月19日)

サプリメント漬けの後悔から

 相馬監督が、これほど食事を重要視しているのは「自分がやってこなかったから」。社会人(シダックス)まで現役を続けたが、食意識が低く、高校時代はサプリメント重視、大人になってからは酒とタバコ。「特に高校時代にすごくもったいないことをした。後悔している」と振り返る。

「高校時代の食事は大切」と話す相馬監督
「高校時代の食事は大切」と話す相馬監督

 指導者になってから少しずつ形を変え、今の体制に整えてきた。「3食学食」にしても、スタート時は選手1人につき月3万円の予算だったが、すぐに赤字になったため、保護者や関係者と話し合いを重ね、今の月4万円(1食約470円)に落ち着いた。相馬監督はぶれることなく信念を貫き、今では保護者も全面的に信頼を寄せてくれるようになった。

全員そろって「いただきます」の後は食事に集中
全員そろって「いただきます」の後は食事に集中

 チームが結果を残すことで、次第に学校周辺の住民も支援してくれるようになってきた。寮生が通う焼肉店は、月1万円でサポート。米や肉、旬の野菜などの差し入れが集まるほか、多方面で協力を得ている。「勝つこと、結果を出すことは“資産”になる。こういった取り組みが広がり、高校生アスリートをサポートする環境がもっと整ってくれればいい」(相馬監督)。秋の関東王者とはいえ、今回のセンバツは挑戦者。「心技体を整え、萎縮せず、伸び伸びとプレーしてほしい」と話す相馬監督だが、密かに旋風を起こすことを狙っていそうだ。

睡眠8時間以上、自己管理

 相馬監督がもう1つこだわるのは、自己管理ができる選手になれということ。「野球はスピーディーに進むから、食事中も余計な話をせずにだらだら食べない」と池田主将が説明するように、チーム内にはいくつもの約束事がある。睡眠8時間を確保するよう生活を整え、スマホアプリで管理。最近は、選手が自分自身を知るきっかけとして遺伝子検査をすすめてもいる。

学食の入口に、部員の靴はきれいに並べられている
学食の入口に、部員の靴はきれいに並べられている

人気メニューは丼、ラーメン

 「今年の代は本当にいい子。礼儀やマナーがある」と絶賛するのは、13年春から学食を運営する塚本さん。約15人のスタッフでローテーションを組み、限られた予算の中、作業効率を考えた仕込みの連携でまかなっている。早朝出発の試合にはバスで食べられるよう朝、昼の弁当を作るなど細かい要望に応じたり、アンケートで選手の好みを把握し、メニューを工夫したりしている。人気なのは丼やラーメン(生ラーメンに野菜たっぷりの具)で、取材日の夕食は中華丼だった。「みんながベクトルを合わせ、同じ取り組みをすればすごい力になる。選手にはいい結果を出して欲しい」と目を細めていた。

自身で作った横断幕を食堂に飾り、選手を応援する塚原さん。左は調理スタッフの岡田千佳子さん、右は小柳真紀子さん
自身で作った横断幕を食堂に飾り、選手を応援する塚原さん。左は調理スタッフの岡田千佳子さん、右は小柳真紀子さん

新入生向けに栄養講座開催も

 献立をチェックするのは、アスレシピにもコラム・レシピを提供する田澤さん。かつて給食委託会社シダックスに勤務。当時は“同期”の相馬監督との接点はなかったが、3年前からチームに関わり、過去2回、主に新入生向けに栄養講座を開いている。「3食学校で食べることは、エネルギーや栄養素の補給だけでなく、生活リズムを整えること、チームの団結力を生むことにもつながっていると感じます。毎食の食事で『食事の基本』を学んでいるので学外での食事、卒業後も身に付けたものを生かし、食事の大切さを感じてもらいたいと思います。センバツでは食事や練習で作ってきた体、精神力で、持てる力を十分に発揮してもらいたいです」。

 ◆中央学院高校 千葉県我孫子市にある私立高校。男女共学。1900年(明33)、東京・日本橋に開校した日本橋簡易商業夜学校が前身。学校法人中央学院は51年に設立され、70年に法人傘下2つ目の高校として開校した。野球部は翌71年に創部。部員49人、マネジャー3人。現チームの公式戦成績は12勝2敗。甲子園は春夏通じて初出場。主な卒業生に元巨人内野手の古城茂幸氏、元ヤクルト投手の押本健彦氏、サッカー柏MFの沢昌克がいる。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】