日本人唯一のプロボディービルダーとして活躍し、今年3月に米国で行われた俳優アーノルド・シュワルツェネッガー主催のボディービル大会「アーノルド・クラシック」で初優勝を果たした山岸秀匡さん(42)。食べたものすべてが競技結果に直結するボディービルダーに、良質な筋肉を作るための食生活について話を聞いた。【取材・千歳香奈子】

食べたものが直結、楽しみより結果のため

 ボディービルダーの食事は食べる楽しみというよりも、エネルギーや体を作る原料ととらえています。ボディービルは直接体の外見や体脂肪、筋肉などを審査するので、食事が100%でないと試合で良い結果が出せない競技です。

アーノルド・クラシックで優勝し、シュワルツェネッガー(右)から表彰される山岸秀匡さん

 他のスポーツ、例えばフットボールや野球などは、技術があって試合をするわけですよね。だから、例えば試合の前日に焼き肉を食べても勝てることもありますが、ボディービルはそうはいかない。プログラムされた食事、カロリー、タンパク質、炭水化物を計算してステージに立って作品(体)を見せる競技なので、数あるスポーツの中でも一番栄養に対するこだわりのあるスポーツだと思います。

年間通じて基本栄養素をコントロール

 食事の基本はタンパク質、炭水化物、脂質の3つ。それぞれの成分を必要な量取ることが求められます。

 コンテストの12~16週間前からは計算した食事をします。それ以外の時は少しリラックスして週に何回かは少しだけ好きな物を食べたりもしますが、基本的にはタンパク質、炭水化物、脂質のバランスを考えながら年間を通じて食事には気をつけています。

 体作りというのはいきなり12週間でできるわけではないので、年間を通じてクリーンな食事、ボディービルの体作りを目標にしたものを食べるように心がけています。

タンパク質
 どれくらいのタンパク質が必要か。これは数字が決まっていて、体重1キロあたり20~30グラムといわれています。体重60キロの人なら120~180グラムのタンパク質が必要となります。

 肉を120グラム食べればよいと単純に思う人も多いと思いますが、例えばボディービルダーがよく食べる鶏のむね肉100グラムの中に含まれているタンパク質は25~30グラムです。残りの70~75グラムは水分なんです。鶏のむね肉だけでタンパク質を取ろうと思ったら、400グラム以上食べないといけないわけです。

 体重100キロの私の場合は、必要なタンパク質を取ろうと思ったら結構な量の肉を食べないといけないわけなので、食事の量は自然と増えてきます。ですから、ボディービルダーの食事は1日3食ではなく、5食とか6食に分けて食べるわけです。それによって、効率良くたくさん吸収できるようになります。

 鶏肉の良いところは脂肪分が少ないことですが、鶏肉以外にも、脂肪分の少ない赤身の牛肉やターキー、卵の白身、白身魚とかもタンパク質をとるために良いとされていて、それらをメインに食べます。

 育ち盛りの10代の若いスポーツ選手は、体が大きくなってくる時期なのでタンパク質が必要です。親が気をつけてあげて、良いタンパク質を食べさせてあげることにより、強い体を作ることができます。筋肉、骨の基礎ができるのは10代ですから、この時期のタンパク質摂取は非常に重要です。

日本人唯一のプロボディービルダー山岸秀匡さん

炭水化物
 炭水化物はエネルギー源です。日本人にとってはお米が炭水化物の代表ですね。炭水化物の摂取量は、その人の代謝の量によって異なってきますが、ボディービルダーで大会に向けて体脂肪を減らしていくときは炭水化物を減らしながら体の体脂肪を燃やしていきます。

 逆にトレーニングで体を作っていくときは炭水化物を少し多めに取ります。その時の状況によって違いますが、体重比率で6倍くらいの炭水化物を取れば良いとされています。代謝は人によって違うので、太りやすい体質の人は少なめの量、逆に食べても食べても太らないと言う人は代謝が良いので、もっと炭水化物を取っても良いという風に調整することが大切です。これも1日に5~6回に分けて食べます。

 炭水化物にもいろいろありますが、パンは作る段階で塩分や脂質などその他の栄養素が一緒に混ざっているので、コンテストの準備で確実に必要な炭水化物の量を計算している時には食べません。ご飯、オートミール、ポテトやサツマイモなどを食べます。

 炭水化物の中でも白い物は体に良くないと言われていますが、その通りです。白い炭水化物は精製されているものなので、吸収がとても早いんです。インスリンのレベルを上げるので、太りやすくなります。ですから、白い炭水化物はあまり食べないようにしています。玄米、オートミール、イモなら普通の白いイモではなくてスイートポテトを食べます。こういった炭水化物は繊維質が豊富に含まれていますから、体内でゆっくりと吸収されて、腹持ちもとても良いです。インスリンの上昇もないので、太りにくいのが特徴です。

脂質
 脂質は食べると脂肪になりそうな気がしますが、そんなことはありません。脂質も人間の活動に重要な栄養素です。これもエネルギー源ですが、脂質はエネルギーが高い。1グラムあたり9キロカロリーあります。脂ものを食べると太りやすいと言われるゆえんです。

 お菓子などは脂質が多いですから、ボディービルダーだけでなくスポーツ選手はやめた方がいいですね。脂肪は卵の黄身や魚、牛肉の脂身などに含まれています。脂もきちんと計画して取る必要があります。コンテスト前でカロリーを制限している時でも、状況に応じて例えば1日9グラムのオリーブオイルを計算して食べるようにしたりもしています。そうすることによって、脂肪の中でも必須脂肪酸という栄養素を欠かさず取ることができます。

塩分
 塩分を取りすぎないよう注意、といわれることが多いと思いますが、運動をしている人は高血圧などの問題がない限り、塩分は多めに取った方がいいと思います。汗の中でミネラル、塩分が流れていってしまうので、低塩分の食事はスポーツ選手には向かないですね。

 ただし、塩分と同時に水分も多く取らないとだめです。意外と無視されやすいですが、水分と塩分摂取はスポーツ選手は特に気をつけた方がいい点です。暑い夏場は特に多めに取ることを心がけた方がいいですね。天然の塩でも、醤油でもいいです。

 筋肉作りは継続しないとだめですから、週に2、3回から初めて、毎週続けることが大切です。体は急に出来上がってくるものではありませんから、栄養に気をつけながらトレーニングは週に2~3回欠かさずやることが必要です。栄養もトレーニングも、継続が大切です。

山岸秀匡(やまぎし・ひでただ)

 1973年6月30日、北海道帯広生まれ。早大人間科学部スポーツ科学科卒業。野球、少林寺拳法、柔道など幼い頃からさまざまなスポーツに親しみ、高校でラグビー部に入部したことをきっかけにウェートトレーニングに目覚める。大学2年生の時に、大学ボディービル界の名門、早大バーベルクラブに入部。1994年のデビュー戦で関東学生3位、全日本学生4位となる。翌年から2年連続で関東、全日本ともに優勝。1997年スポーツサプリメーカーの老舗(株)健康体力研究所に入社。2000年に退社した後、米国にボディービル留学。7カ月の留学生活を終えて帰国後、ミスター日本で3位入賞、世界選手権75キロ級6位入賞の成績を収める。2002年プロに転向。2007年にアーノルド・シュワルツェネッガーが主催する大会「アーノルド・クラシック」に日本人として初めて招待選手として出場し、2016年に同大会で初優勝を飾る。ボディービル界の最高峰と言われるミスター・オリンピアにも出場し、2015年は3位入賞を果たした。身長168センチ、体重95キロ(コンテスト)、105キロ(オフ)。